アホウドリの家族たち 第十三話
「何を言っているんだ!? そんなことをするわけない! 第一、共和国に魔石があるなどどうやってわかる? それにお前、なぜ共和国のリン鉱石などに触れることができたんだ!? お前こそスパイではないのか?」
ついに俺の言葉にルカスは激高してしまった。責め過ぎたからだろう。
俺は五家族の失態をすべて目の当たりにした。クビは掴んでいる。話しても大丈夫だろう。
「正直に言いましょう。スパイと言えばそうですが、どこにも属しているつもりはありません。俺は和平交渉実現のため共和国側に行ったことがあります。科学の発展したエルフの旧ルーア・メレデント共和国、今はルーア共和国です。
人間との和平実現を共和国内部で、エルフのふりをして推進しました。和平交渉の際に連盟政府側に送られた書簡はご覧になりましたか? そこに書かれていた四人の責任者のうちの一人、軍部省長官ユリナ・ギンスブルグの家でお世話になりました。リン鉱石もそこで分析をしました。
そして、双子救出の際にカミロや研究員が使用していた銃と同じものを多く目撃しました。それの動力は魔石です。信ぴょう性が薄いというなら、責任者四人全員の名前を挙げましょうか?」
エスパシオは右手を挙げると、
「いや、構わん。民間にはまだ開示されていないはずの書簡の内容を知っているならば、十分信ぴょう性は高いと見える」
と頷いたので、俺は話をつづけた。
「俺はそこで瀬取りのルートを聞きました。連盟とのつながりはそこが一番太いようでした。コーヒーのことも言っていましたよ。おっしゃられた通り、共和国の法律省長官殿はご丁寧にルカス豆と言う銘柄までご存じで、とても気に入っているようです。そこではっきりとは言いませんでしたが、魔石のことも言っていました」
完全にペースは俺の手の中にある。焦りに目を揺らしているルカス以外の頭目たちは何も言わずに話に耳を傾けている。
「あなたは頻繁に瀬取りを繰り返し、リン鉱石の価値を知ってしまいました。エルフたちがそう呼んでいるのを無意識のうちに聞いていたのでしょう。さらに共和国内での魔石の価値についてもです。そしてリン鉱石に紛れ込ませるように魔石も送っていた。
リン鉱石の採掘等の主体はシスネロス家ですが、輸出に関しての管理はブエナフエンテ家です。それがどういうことか、魔石を送っていたことが表ざたになった場合にシスネロス家に責任を転嫁できるようにしていたのでしょう。
コーヒーはその隠れ蓑でしかありません。バレたときに、うちはコーヒーしか送っていませんと言うための。もし、ここで俺が連盟政府の中枢にぽろっと言っちまったら……ルカスさん、イスペイネはどうなるでしょうね?」
しばらくの沈黙の後、ルカスはテーブルに肘をつき頭を抱えるようにうずくまった。そして
「何が目的だ……?」
と小さく聞き取りづらい籠った声をだした。
「いえ、簡単な話ですよ。俺は誰からも何も言われずに、ここでの最高勲章である開翼信天翁 十二剣付勲章を貰えればいいんですよ」
カリストが困った顔になり、顎を弄りだした。
「君はただ名誉が欲しいだけなのか?」
俺が勲章をよこせと言ったことに少しうんざりしたような空気になった。
「いえ、そんなものが欲しいのではありません。五家族の序列を無視した発言をするために最高勲章が必要だったんです。今この場に出られたので、もう貰えなくなってもかまいません。ですが、話は最後まで聞いてください。勲章を持つ者として」
カリストは肘置きに頬杖をつき、反対の掌をこちらへ向けている。そして両眉を上げた。
俺は仕草に促されて、
「俺が求めているのは五家族の結束です」
と言うとヘマとルカスが顔を起こして俺を見つめてきた。
「勲章は、言い方は悪いですが、その足掛かりです」
「勲章をただの踏み台にするとは。言うのは勝手だが、具体的な方法はあるのか?」
「ないです。今まで通りを維持するためにできることをしてください。まず、シルベストレ家は紅蓮蝶の調査を徹底的に行って拡散防止に努める。ブエナフエンテ家はそれを手伝う。
販売に関してはヤシマ、仲間が抑えてくれました。両家が手を取ることでしていかなければいけないと考えています。そして、瀬取りしていたことは黙っておけばいい。その代わり、始めたばかりの海上交易を真っ当な形で盛んに行ってエルフたちのことをよく知り、そして広めてください」
椅子から立ち上がり、頭目たち全員を見渡した。一人一人目を合わせるように訴えかけながら。
「世界は今不安定になりつつあります。広大なイスペイネ自治領で大きな力を持つあなたたち五家族は一人でもかけてはいけません。欠けてしまえばパワーバランスが崩れます。だから、悪いことはすっぱりやめて、和平が訪れるまで体勢を維持すればいいのです。
改めて繰り返しますが、もし、最高勲章の取り消しか、五家族の結束のどちらかを選べというのであれば、迷うことなく結束を選びます」