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アホウドリの家族たち 第十二話

「なんだと!?」とルカスは俺を睨め付けた。


 俺はテーブルの上に以前バスコに貰ったリン鉱石を置いた。直接置いてしまいそうになったが、元はと言えばアホウドリの糞であり、これをただの糞だと認識する頭目もいるので、袋から出した後テーブルにハンカチを敷きその上に置いた。


「これが何かわかりますか?」


 やはりヘマはそれを見て汚らわしいものを見るように鼻筋を曲げ、バスコは無表情で視線を送っている。カリストもエスパシオも、あまり良い表情ではない。そんな中、ルカスは怪訝そうに「リン鉱石だが」と見ながら答えた。


「そうです。頭目の皆さんは見ればすぐわかります。ただのリン鉱石です。ですが、このリン鉱石を“リン鉱石だ”ときちんとそう呼ぶのは五家族の頭目の中でルカスさん、あなただけなのです。今おっしゃったとおり、リンは人間には必要のない物です。そのせいか他の家族の方は“リン鉱石”や“リン”とは呼ばずに、ゴミやくず、鳥の糞と呼んでいます」


 ルカスは肩眉を上げてこちらを見ている。そしてテーブルに置かれた手は握られてわずかに震えている。


「だからなんだ?」


 平静を保った声とは裏腹に額に汗が見えるのは少し焦り始めた証拠だろう。


「ルカスさん、あなたがなぜそう呼ぶのか。それはエルフの産業におけるリンの重要性を理解しているからです。娘のラウラさんにリン鉱石の精製方法を学ばせようとしたのはそうだからではないでしょうか?」と尋ねると、奥歯を噛み締める様な音が聞こえた。


「あなたはコーヒーの密輸を通じて共和国内部を知ることになった。結果リンの重要性に気が付いた。賢いあなたはそれを見逃すわけがない」と俺が言い切ると同時にルカスはテーブルに手を叩きつけた。


「だが、やっていたのはシスネロス家だ! 鉱床を持っているのもバスコだ。採掘もそうだ。私はどうしようもできまい!」


「まさにそれがあなたの目的なんですよ。シスネロス家を追い出すため、もしくはあなたがこうやって追及された時のために」


 俺は椅子に深く座り直し、背筋を伸ばした。


「最初は俺もシスネロス家がリンを密輸しているのかと思いました。実際、鉱床を管理しているのはシスネロス家です。ですが、頭目のバスコさんはリン鉱石を灰白色の石ころや鳥の糞と言い、あまり興味を示しませんでした。確かにそれだけでは証拠としては不十分です」


 視界の隅でバスコが腕をテーブルに乗せ、手で口を押えている。流れが変わり始めたことに気が付いたようだ。


「バスコさんから聞きましたが、シスネロス家が採掘したリン鉱石はすべてブエナフエンテ家が買っているそうですね。それも大量に。それらはどこへ消えたんですか?」


 ルカスは腕を組み、目を閉じた。


「コ、コーヒー園の肥料だ。アホウドリの糞を肥料にしてこそ、良質な豆が実る。それに、共和国へ密輸されていたものがイスペイネの物と同じであるとどこでわかるのだ?」


 俺はテーブルの上のリン鉱石を持ち上げた。


「以前バスコさんからリン鉱石をいただき、あるところで成分分析をしました。結果、共和国に密輸されていたものと全く同じものでした。イスペイネ産の物には流れ出なかった窒素成分……ある成分がわかりやすく多いのです」


「なるほど、君があの石をくれと言ったのはァこういうことか」と黙っていたバスコが反応した。


 そういうと会議室は静まり返った。バスコもヘマもカリストも、エスパシオですらルカスに白い目を向け始めた。状況の悪化に動揺し始め、両手を前に突き出して首を左右にふり一同を眺めた。額には汗が光り、もはや隠し事はできない状態だ。首は次第に下がり始めて、ついにくたっと前に力なく屈み、額がテーブルにつきそうなほど落ち込んだ。しかし突如立ち上がり、


「確かに! 確かに私はリンも密輸した! だが、人間にとってゴミならいくらでも送り出していいじゃないか!」と言い両手をテーブルについた。


「私はイスペイネのために儲けたかったのだ! 人間にはゴミかもしれないが、欲しがる相手がいる以上、私はそれをゴミとは呼べない! そしてそれで儲けて何が悪いんだ!家族を守るため、家族のために(パラ・ラ・ファミーレ)!」


 ルカスは泣き崩れて膝をついた。そして「すまなかった。許してくれ」と深々と頭を下げた。


 しばらくルカスのうめき声が聞こえていたが、次第にカリストの顔が哀れみの色を帯び始めた。


「もうよい。大丈夫だ。お前は家族のためにそうしたのだから許そう。これからは海上交易を表立ってすることができる。そなたにはよく働いて貰わねばな」


 カリストは終わらせようとしている。さすがは事なかれ主義者、隙あらば終わらせようとする。


 だが、まだだ! この状況においてまたしてもルカスを責めなければいけないのはきつい。だが、彼の泣き声はどうも俺には乾いたものにしか感じない。止まる必要はない。


「待ってください。長々とルカスさんを糾弾しましたが、それだけでは終わらないです。いえ、むしろこれからが重要です」


 これは五家族のために必要なんだ。


「あなたはリン鉱石に混じって魔石を共和国に輸出していましたね?」

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