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アホウドリの家族たち 第十一話

 その言葉に会議に出席していた一同は止まった。それを見回したルカスは


「五家族は解散し、カルデロン家、エスピノサ家、ブエナフエンテ家で御三家になり、残りのシルベストレ家、シスネロス家は主従二家族とするべきではないか?」


 と言い、右眉を弄った。


「つまり、五家族から両家を外す、と言いたいわけだな?」とカリストが面倒くさそうに椅子の手すりに頬杖をついた。


「い、嫌じゃ! わらわは離れとうない! この家族が大事じゃ!」とヘマが立ち上がると椅子が倒れた。


 だが、その音にかぶせるようにルカスはヘマを怒鳴りつけたのだ。


「だまれ、ヘマ! 今回の件でシスネロス家とシルベストレ家は糾弾されるべきことを行っていた。ことが公になれば世襲貴族のバカ息子、バカ娘と世間から揶揄されるのは明白だ! これまで目をつぶっていたが、もう私は耐えられんぞ!」


 そう言うと人差し指でドアの方を思い切り指さした。


「五大家族の恥さらしが! もう序列を名乗るな! いや、五家族から出て行ってしまえ!」


 ヘマは焦りと悲しみに目を震わせ、手をテーブルに着いたままわなわなと震えている。他の頭目たちは黙ってしまった。


 俺はカリストが年甲斐もなく舌をベッとちらつかせたのを見逃さなかった。どうやら、俺と同じ現状維持を考えていたのは間違いない。面倒なことをしてくれたな、という。


 やはりまだ俺の出番は終わっていなかったようだ。


「よろしいですか?」と手を上げた。


「ルカス頭目、あなたについてこの場でお伺いしたいことが何点かございます」


 カリストは椅子の肘置きに頬杖をついて、ほとほと困り果てたというような顔をしている。

しかし、勲章を持つ俺は発言権があるので無視することはできない。掌で口を覆っているカリストはくぐもった声で、何だね? と俺の発言を許可した。


「さて、ルカスさん。俺たちが最初に情報提供を受けたのはシルベストレ家の使用人アニバルからでした」


 ルカスは憤るように腕を組んでいる。


「それがどうかしたのかね? 犯罪者のしたことなどに関わりはないぞ。私は憤慨している。あまり支離滅裂なことを言い続けると、たとえ君の話でも場合によっては勲章の授与に異議を唱えなければならない」と目を硬くつぶり、首を背けている。


「アニバルであることは問題ではありません。したことは犯罪ですが。気になるのは、ブエナフエンテ家が手に入れた情報を、俺たちに伝えず、なぜわざわざヘマさんへ伝えたのかです。不自然だと思いませんか? 犬猿の仲なのにわざわざ伝えるとも思えません。一つ考えられるのが、ルカスさんがヘマさんをけしかけたのではないかと言うことです」


 ヘマはびくりと動き体ごと俺の方を向いた。バスコの視線もわずかに俺を見ている。


「あなたは以前おっしゃっていました。シスネロス家は五家族の威厳がないから追い出したいと。シスネロス家を追い出したい。だが、カルデロンと親交が深く安易にはできない。そこへ運よくイスペイネの錬金術師が誘拐事件を起こした。錬金術はシスネロス家の領域であり、これはチャンスだと考えた。犬猿の仲ではあるが、考え方は近いヘマと共謀し、五家族から追い出そうとした」


 ヘマは首を背けるように動かした。そしてテーブルに伏せるような姿勢になっていった。どうやら図星のようだ。


 カリストの相変わらず面倒くさそうなものをあしらうようなため息にも構わず話をつづけた。


「そのためにはことを大きくする必要があったが、あまりにも大きくなりすぎてエスピノサ家が介入することになった。要するに自治領運営に支障が発生すると考えられたからです。それにより、犯人はシスネロス家の血縁者ではあったが、自分の思想で動いていたにすぎず関係性が薄いと公になり、結果的に二人の目論見は失敗した」


「そんなことは知ったことではない。現に今もここに五家族としているではないか。尤も今日までだがな」と言い、ルカスはバスコとヘマを交互に睨んだ。


 その通り。もう知ったことではない。ヘマをこれ以上追いつめはしない。今はルカスが主役なのだ。


「そうですね。とにかく失敗したことはもう置いておきましょう。ですが、それで終わることはないんです。ルカスさん、あなたはもう一つ隠し玉を持っていた」


 ルカスの鋭いまなざしが俺に向けられた。


「どういうことだ?」


「海上交易が始まったのはついこの間じゃないですか」


 俺は向けられた視線に立ち向かうようにルカスの方へ体を向けた。


「でも実際は、とあるところから聞いたのですが、瀬取りは20年にわたり頻繁に行われていたのですよね?」


 尋ねるとルカスは驚いたような表情の後、額を二、三度擦り、下を向き申し訳なさそうな笑顔を見せた。


「バレてしまったのはしかたがない。確かに、私はコーヒーを何年も送り続けていた。エルフの中にはわが家のものを気に入ってくれている者がいてな。敵ながらも美味しいと言ってくれる者たちを無視することはできなかったのだよ。そして、家族を貶めるようで嫌なのだが、実はリン鉱石を輸出していたのは知っていた」


 馬鹿にあっさり認めた。しかしそうするだろうというのは想定済みだ。


「そちらを主体で行っているのはシスネロス家だ。同じ家族として恥ずかしい限りだ……」とテーブルに両肘をつき、髪を両手で後ろに流した。頭目たちの視線がバスコに向かった。


「本当かね? バスコ頭目。君は……なんだ? そのリンと言ったか、何だね、それは?」


 カリストは密輸に関しての話が出てくると態度を一変させた。ついていた頬杖を離すと少し前かがみになる様に椅子に座りなおした。


「カリスト頭目、リン鉱石とはアホウドリの糞が長い年月をかけて蓄積し鉱石になったものです。我々人間には役に立たない物です。なぜかエルフたちはそれを欲しがったようです」


 ルカスはカリストに説明をした。しかしそれが終わってもバスコは口を開こうとはしない。三白眼で話のやり取りを遠巻きに見ているだけだった。それに気を悪くしたのか、ルカスはバスコを話の場に引きずり出そうとした。


「バスコ・シスネロス、何も言わないのか? 君も弁明したほうがいいと思うぞ」


 バスコの名前を出したのもやはり想定の内だ。積極的に情報を場に与えることで話の中のターゲットを逸らそうとしている。無言とはまた異なったやり方だが、


「白を切らないでください。ルカスさん」


 よくしゃべるとやはりぼろが出るのだ。俺がそれでよく失敗したから知っている。

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