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真っ赤な髪の女の子 第四話

「て、シバサキくんは言ってたわよ。時期的にその後あんたが入ったんじゃない?」


 この間と同じ応接室で女神はシバサキが語った彼自身の今までの経緯を話してくれた。チーズのはさんであるおかきをぽりぽり軽い音を立てながら食べている。


「本人が鼻の穴膨らませて話してたからどこまでホントか知らないけど。あたしもいちいち全員のすべて把握してるわけじゃないし。明らかなうそもあるし」

「そうなんですか、アルテミスさん」

「ブー、違う。フクロウとオリーブだっつってんじゃん。んで、シバサキくんはあたしの若気の至りみたいなものね。世界を救うべく救世主を探し出すために日々邁進してて、やる気のある人材を応援したかったのよ。当時は業績を中心に評価することに抵抗があって、やる気に溢れていてバシバシやっていそうな感じの人を重視したほうがいいんじゃないかと思っててね。今思えば最悪の無能上司ね。それであまりにも嘆くもんだから支援したのね。いきなりは無理だから条件が整ったらするってことにしておいてたのね。その条件てのが勇者が病気になって動けなくなった場合て後付したの。今寝込んでる前勇者の可能性を過信して、戦いを終わらせられると思ったのよ。ぶっちゃけあんまりやらせたくなくてとっさに考えて「あなたを戦いに巻き込みたくなかった」てことにしたんだけどね。我ながら顔ひきつってたと思うわ」


 膝の上に落ちたおかきの欠片を面倒くさそうにぱっと手で払った。


「なんだか、その、聞いていてあまりいい気持ちではないですね」

「自分の経歴を悪く言える人間なんかいないわよ。たとえそれで笑いを取るためにどれだけ卑屈に言っていたとしても、口から外に出てくるものは美化されていることは誰しもそうよ。心と口の間で大勢の人が伝言ゲームしてるのと同じ。たべる?」


 小分けされたパッケージをひょいと投げてきた。女神が話し始める前にいつもの事務服の女性が置いて行ったお茶はぬるくなっていた。シバサキが恩人のお見舞いで、本当にそうなのかはわからないが、長期にわたって班での行動を放棄していることを相談しに来たところだった。


「不在の話だっけ? 前からちょくちょくあったし、正直またかという感じはあるのよ」

「それなんですけど、なぜ手を打たないのですか?俺の時みたいに呼び出して権利剥奪!とか伝えればいいのに」

「何するかわからないでしょ? 下手に剥奪して犯罪者になるくらいなら目の届くところで飼い殺しにしてるほうが安全なのよ」


 確かにそうだ。朝と昼と夜で性格がころころと変わる多面性は恐ろしいところがある。

妙に納得してしまい、何も言えない雰囲気になってしまった。少しお茶の残った湯呑を持ったまま沈黙した。


「まだしばらく戻ってきそうにないですね。俺たちどうしたらいいですか?」

「バイトでもしたら? ほかの班で欠員みたいなのちょこちょこあるし」

「バイト、ですかぁ」


日本にいたころ、バイトをしたことがある。

国家資格を生かしたバイトだった。ほんの少しだけ思い出しただけで胸糞が悪くなってきた。


「なに? どうしたの? 昔のこと思い出しちゃった?」

「まぁ、はい」

「前向きなさいよ。もう戻れやしなんだから」

「戻れないん、ですね。やっぱり」

「戻りたいの?家族が心配?」

「そりゃもちろんです」

「申し訳ないけど無理。あんたんとこ火葬でしょ。土葬ならワンチャンイケたかもね。ホントはダメだけどいいこと教えたあげる。家族はみんな健康に楽しくやってるわよ。バリキャリのお姉さんも再婚して今は連れ子の甥っ子含めて三児の母よ」


 残してきた家族は何もないと聞かされて、それどころか楽しく健康に、と聞くと何とも悲しい気持ちになるが、それよりもみんな無事なのかと深く安心できた。思い出してニヤついていたのを見られてしまったことを女神が見ていたのか、ふふふっと笑った。気づかれたことが少し恥ずかしい。


「まずは知り合いのところでバイトしようと思います。この間の遅刻した集会で知り合ったパン屋が面倒見てくれそうなので」

「あてはあるのね。そうそう、あんた前の集会であたしが言ったこと覚えてる?今が事前の神託ってことで。まだほかの全員には伝えてないけど、この間の森で任命式やるから日付はおって伝えるわ。暇なんだったら設営手伝ってもらうかも。じゃバイト頑張ってね、イズミくん」


 シバサキ不在の間アルバイトすることになった。これから残された三人はそれぞれに分かれて生活することになる。

 来た手紙の内容をレアとカミーユに伝えるため、女神に相談した次の日にいつもの集合場所わきにあるカフェに入った。二人がどうするのかある程度把握しておいたほうがいいので少し話し合いの場を設けた。


 俺は当面の間、名刺をもとにパン屋のアルフレッド夫妻を頼ることを伝えた。


「レアさん、シバサキさん不在の間どうしますか?」

「うちの商会には派遣向けの研修会みたいなのがあって履修しなければいけないのですよ。これを機に受けてこようと思いますね」


 レアは本部に一度戻ることにしたようだ。派遣ゆえに客先常駐のような状態ではないのだが、研修会の履修と組織の中でのキャリアアップのためしばらく本部付きで報告書を作成するようだ。


「カミーユさんは決めました? 手紙の様子だとシバサキさんだいぶ帰ってこないと思います」

「私は決まっていませんが実家に戻ればだいたい何かあるので戻ることにします」


 その後、万が一の際に備えて私用の連絡先を交換し解散となった。

 しばらく、具体的にどのくらいかはわからないが会うことはないだろう。

 二人が出て行ったカフェのドアは静かに閉まった。

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