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アホウドリの家族たち 第四話

「おぬしは何じゃ! 毎回毎回夜中に訪れおって! 双子はもう見つかったのじゃろ!?」


「おたくの使用人についてご相談が」


 いつもの部屋に通されるとメンズも並べずにヘマが登場した。この間よりも遅い時間の来訪になってしまったのは申し訳ないと思うところもある。しかし夜だというのにしっかり面会してくれる辺り、悪い人ではないのだろう。


 彼女の登場とともに、ヤシマはどさっとアニバルを床に落とした。モグッ! と息の詰まるような布の中で苦しそうな声が聞こえる。ヘマはそれを睨みつけるように見つめた。


「ヘマ・シルベストレ頭目、おたくの使用人が一人行方不明だとおうかがいしましたが?」


「そうじゃが。だからどうしたというのだ?」と言うと再び足元の荷物を見た。すると表情を見る見ると変えた。


「まさか!? きさまら!?」と駆け寄り頭にかぶせられていた布を取った。


「アニバル!? これまでどこに行っておった!?」


「ヘマ様、ごめんなさい」


 アニバルの変わり果てた姿に驚いていたが、すぐさま見下ろしている俺たち二人をキッと睨みつけると「どういうことじゃ!?」とゆらりと立ち上がり詰め寄ってきた。


「こういうことです」と短く答えると、ヘマは視線をさらに鋭くして俺たちを人差し指で差してきた。


「使用人に手を出すなど許されるものではない! 使用人の侮辱は家人の侮辱じゃ! 勲章などもはや関係ない! ティルナ・カルデロン! そちはなぜこれを黙ってみているのだ!? 使用人への侮辱は犯罪ではないのか!?」


 背後にいたティルナがもじもじ一歩前に出ると「あ、あのヘマ頭目は植物に詳しいですか?」とばつが悪そうに尋ねた。「以前お話しした紅蓮蝶(マリポーサ)についてのお話です」


 しかし「そんな銘柄など知らぬわ!」とヘマが口角泡を飛ばすとティルナは縮こまってしまった。


「この間は冷静さを欠いて正しく伝えられませんでしたが、それに依存性の高いものが含まれていました」


 俺はウィンストンが鑑定したタバコの入ったロケット標本ケースを取り出して見せた。タバコと含まれていた茶色い葉っぱが中で固定されている。ヘマはそれを奪い取るとしげしげと見始めた。


「これが何じゃ!?」


「よく見てください」


 ヘマは目の高さよりも高く上げ光に当て、眼を細めてタバコの包み紙を覗き見た。そこには小さくてつぶれがちになってはいるがシルベストレ家の紋章であるタバコの葉を咥えたアホウドリが描かれている。


「我が家のタバコがどうかしたのじゃ?」というと、分解して出てきた葉の残骸へとちらりと瞳孔が動いた。その瞬間、ヘマは息が止まったかのような顔になった。


「こ、これは、どういうことじゃ? なぜこの葉が混じっておるのじゃ……?」


「ヘマさんはこれがわかるのですか?」


「当たり前じゃ。政府管理下に置かれる前に非魔術(ユーベー)系の治療院向けに少数扱っていたが、その後禁止になったというのは父上や母上、それ以前から教えられておる。な、なぜここにあるのじゃ?」


 ヘマは何かに気付きつつあるのか、顔に焦りが見え始めた。


「ヤシマさん、イズミさんの横にいる男性がある商品をイスペイネからノルデンヴィズへ運ぶように依頼されました。しかし、その商品と言うのがサイズに合わないほどかなりの高額であり不審に思ったので中身の解析を行いました」少し違うがそう言うことにしておこう。


「解析を行ったイズミさんの報告を受け、ヤシマさんと私たちカルデロン家で捜査に協力しました。ですが、あえてヤシマさんが単独で捜査しているかのように装いました」


 ティルナによると、その犯人がヤシマに襲撃をかけてきたそうだ。だがヤシマも一応勇者と言うことでそれなりに強く、監視していたカルデロンに頼らず返り討ちにしたそうだ。

 その後、自供させた製造拠点をカルデロンの者が捜索をすると、製造されていたと思われるタバコが発見された。それにはシルベストレ家の紋章が入っていたらしい。裏付けのために押収したそのタバコの解析をその場で行った結果、遥か昔に民間での栽培を禁止にされていた植物の葉や花の芽が混入していた。と彼女が説明すると、ヘマはその場にいる俺たち全員を不安な目できょろきょろと落ち着きなく見回した。


「い、言わなくてもわかる。これがダメなものだというのはわらわだからわかる。しかし、それがアニバルと何の関係があるのじゃ?」


「あんたが庇おうとしている、その男が混ぜて売っていたんだ。エイン通貨を稼ぐためノルデンヴィズでな」


 ヘマは床に倒れ込むアニバルに迫った。


「ど、どういうことじゃ!? はっきり説明したもれ!」


 だがアニバルは何も言わず、ヘマから視線をそらした。それにヘマは息を飲み込み、表情を凍らせた。


「嘘じゃ!! 嘘じゃ! 嘘に決まっておろう!」


 ヘマが屈んだまま怒鳴り散らすと、「交戦中にヤシマさんがうまく誘導して、すべてしゃべらせたのをカルデロン家の者も全員聞いていました。残念ですが言い逃れはできません」とティルナが強く言った。彼女にしては珍しい強気な態度にあっけにとられたヘマは口を開けたまま黙ってしまった。ティルナは続けた。


「ですが、アニバルは、シルベストレ家は関係ない、と言っていました。確かにあなたも紅蓮蝶(マリポーサ)をご存じない様子でしたのでそうなのでしょう」


 ヘマはアニバルの肩を掴んだ。そして「アニバル、どういうことじゃ!?説明したもれ!」と大きく揺すりはじめた。


「なぜ、なぜそんなことをしたのじゃ?どうしてじゃ……。わらわはそちを家族のように思ってきた……。なぜ裏切るようなことを」


 するとアニバルが揺らしているヘマの腕をそっとつかみ、口を開いた。


「あなたは、なぜ私を叱らないのですか?」


 突然の問いかけに、それは、とヘマは空気を噛んでいる。


「それが辛かったんです……重荷だった」とアニバルはヘマから視線を逸らした。


「私はヘマ様が嫌いなのではありません。ただ……」

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