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アホウドリの家族たち 第三話

 俺がヤシマから連絡を受けたのは夜もだいぶ更けた頃だった。


 どうやら紅蓮蝶(マリポーサ)を作っている奴を捕まえたらしい。キューディラ越しの話し方では一人だけを捕まえたように聞こえた。こういうのは組織だってやるものではないのだろうか。俺は疑問に思いながらもヤシマに会うことにした。


「こいつが紅蓮蝶(マリポーサ)を作ってたやつだ。ナイフに雷鳴系の魔術を組み込んである。傷は浅いがしびれて動けないはずだ。カルデロンの連中は今製造拠点の捜索に行かせてある」と足元に転がる大男を見ながら言った。


「さすがだな。怪我はしなかったか?」


 それに両手を空に向け肩を上げて応えた。大丈夫なようだ。


「わざわざ連れてこなくても俺が現場まで行ったのに」


「ああ、ちょっとな、気になること言ったんだよ。それでカルデロンの連中に無理言って連れてきた。あいつらいると言いにくいこともあるみたいだし」


「そうか。しかし、こういうものって一人でやるのはかなり大変だと思うんだけど」


「そうだよなぁ。だが、まぁ、それも」とヤシマは顔にかぶせていた布を取った。「こいつから聞くといい」


 苦しそうな顔をあらわにした男はこれまで何度か見たことがある。シルベストレ家のメンズリーダーのアニバルだったのだ。意外と言えばそうなのだが、モンタンの件もありもはや誰が出て来ても驚かなくなっていた。


 俺は屈み、膝の上に手を置いてアニバルを見た。


「アニバルか……。お前が紅蓮蝶(マリポーサ)を管理してたんだな?」


「がっはっ、そうだ! 許してくれ!」


 息苦しさから解放されて口を開けて、吸い込みながらそう言った。


「許すわけないだろ。何でやったんだ?」


「エ、エイン通貨を得るためだ! 栽培して混ぜて売れば高く売れるって聞いたんだ!」


「誰にだ?」


「名前は知らない! 剣士風の男だ!」


 ああ、なるほど。またか。またこのパターンか。ちらりとヤシマの方を見ると、ほらな? と言いたげに首を傾けて肩を上げた。

 脳裏を嫌なものが過る。これまで剣士風の男と言えば一人しかいない。しかもノルデンヴィズときたものだ。あの町は平和に見えて実は犯罪の温床なのではないだろうか。額に手を当て顎までなぞるように顔を擦ってしまった。もうほとんど黒だろう。またか、と俺は黙ってしまった。


「自分が使うためではない! 私は使っていない!」


 自分で使うとか使わないではない、という説教はまずは余所に置いておこう。問題は個人で済むものではないのだから。


「栽培とかはあんた個人でやってたのか?」


「そうだ! 一人でやってた! シルベストレ家は関係ない!」


「そうか」


 仲間がいても言うわけないよな。するとヤシマが組んでいた腕をほどいた。


「確かに、組織だってはいなさそうだぜ。嗅ぎまわってたおれに襲撃をかけてきたのはコイツだけだった。利権を守るなら、他にゴツイのがもっと出て来てもおかしくないだろ? 畑に見張りもいなかった」


「畑があったのか?」


「ああ、だが栽培している場所もおれが押さえた。日当たりのいい場所に作ってたもんだからすぐに見つかった。冬も気温が下がりにくいからか、バカみたいにデカくなってたぜ。でも幸いにも畑はそこまで広くなかった。処分したよ」と自慢げに鼻を鳴らした。


「まさか焼いてないだろうな?」


「アホか。それがヤベーことくらいは分かる。移動魔法で北海の氷点下の海水を手あたり次第にどっぷりぶちまけた。畑の土もダメクソにしちまったが、多分全滅だ」


 なるほど賢いやり方だ。アニバルが扱っていた分くらいは抑えられただろう。


「さて、俺たちの聞きたいことはそれくらいかな」と俺は立ち上がった。


「み、見逃してくれるのか!? ヘマ様には、ヘマ様には言わないでくれ!」


 話はこれで終わりだと思ったのだろう。アニバルの焦る顔から、すがる様な笑みがこぼれた。


「何言ってんの。俺たちから聞きたいのはそれだけであって、あとはあんたの上司になんとかしてもらうんだよ。今からシルベストレ家に移動してヘマさんに会ってもらわなきゃ。イスペイネにおいて使用人の失踪は大事件らしいからな。理由もなくあんたをしばいたら、俺とヤシマが危うい」


 その言葉にアニバルは恐れおののくように眼を開いて、しびれて動かない体を動かそうとしている。ヤシマは、さてと、と言うと手に持っていた袋の形を整えた。両手で持ち口を広げている。


「た、頼む! やめてくれ! ヘマ様には言わないでくれ! なんでも言うこと……」と首を動かして抵抗するアニバルに袋を再び被せた。ふがふがと声を荒げているがもう何を言っているかわからない。


「ヤシマ、この布の通気性、悪くない?」


「大丈夫だろ。ビニール袋被せてるわけじゃないんだし。ここまで連れてきたんだから死なねえよ」と言うと屈んでアニバルの腰に手を回し持ち上げた。まだまだ元気にモガついている。


 俺は甘いらしい。だからこれ以上話を聞くと情状酌量の余地を与えてしまうかもしれない。ヤシマに目を合わせると俺はシルベストレ家の門前へとポータルを開いた。


 ポータルを抜けたところでは紅蓮蝶(マリポーサ)の製造拠点を捜索していたティルナが待っていて、開いたポータルに気付くと駆け寄ってきた。そしてアニバルを抱えて俺たちはシルベストレ家の門をたたいた。

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