表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/1860

シバサキの追憶 後編

 その後の記憶はぷっつりと途切れている。気が付いたときには家路に就いたときの服装で森の中にいた。そしてなぜかはわからないが、会社前でぶちまけてきたはずの荷物があたりに散らばっていた。

 見たことのない森でだいぶ混乱したが、荷物のおかげで少しの間サバイバルすることができた。


 あるとき、近くの畑から食べ物を持ちだしたとき小さな子ども二人組に会った。その子たちはちょうどお腹が空いていたようなので、畑で採れたての物を上げると、よろこんで食べ始めた。日本人のようで二人から話を聞くことができた。

 一人は十歳の男の子で勇者だと言っている。もう一人は七歳の女の子で魔法使いだと言っている。

この小さな勇者と魔法使いはとても人懐っこいのでかわいかった。この子たちによるとここは元いたところではない別の世界で、自分たちは連れてこられたと言っていた。そして悪い奴らがいてそいつらを倒すのが勇者の役目だと言った。

 確かにここはどこだかわからないが、そんなはずがあるわけがない。きっと想像力豊かな子で知らない土地に来て混乱しているのだろう。どこだかわからない場所で二人だけで生きていくのは大変だろうと思い、二人を保護することにした。


 それから毎日家族のように過ごすようになっていった。


 この勇者の少年の話によると、女神に選ばれると勇者になれるらしい。きっとこの子たちが時折見せる不思議な力の持ち主だとすぐにわかった。僕は日本では自分の能力を持て余し、それゆえに排除されてきた。この新しい場所ならきっと生かせるだろう。少年に頼み込み、その女神に謁見させてもらった。

 美しい女性が現れ、その瞬間やっとここが僕たちのいた元の世界ではないということを理解した。この世界は危機に瀕していて誰かの助けが必要な状態だと言った。この時期に僕が呼びだされた、ということは、僕はこの世界に救世主として呼ばれたに違いない。ならば僕こそが選ばれしものにならなくてはと勇者にするよう女神に懇願した。

 しかし、女神は「条件が整えば勇者にする」という態度を譲らなかった。何度も何度も条件について聞き直したが、結局教えてはもらえなかった。これほどまでに平身低頭して何度もお願いしているにもかかわらずなぜ教えようとしないのか、信用できない女神だと思った。そのときこの三人で世界を救おうと決めた。

 勇者の子は跳ねっ返りが強く、年長者の僕の指示をほとんど無視した。ここで怒ってはいけまいと我慢し続けた。


 しかし、だいぶ大人になった勇者と魔法使いは二人で出かけることが多くなった。父親のように接していたのに二人は離れて行った。

 この二人が完全に離れて行ってしまってしばらく経った後、勇者の元少年は病気になった。きっと女を転がしていたに違いない。だからきっと梅毒にでもなったのだろう。

 その出来事の後突然、条件が整ったと女神に伝えられ僕は勇者になった。実に18年間何も音沙汰もなくもはや信用に値しない女神のことなどどうでもよくなっていたが、それには理由があったらしい。

 理由を問い詰めると女神は「あなたを戦いに巻き込みたくなかった」と言った。やはり女神は素晴らしい人だったのだ。貴重な人材ゆえに無くしては惜しいと考えたのだろう。そして、条件と言うのが勇者が病気になって動けなくなった場合というものだった。やはりあの勇者が梅毒になったのだろう。女神は詳しく話さないが、そんなことはわかりきってしまう。


 本物の救世主となり、世界を救うべく仲間を募った。まず戦士の女の子が来てくれた。その子はカミーユと言う名前だ。とても強く美しい子だ。それからすぐに賢者の女の子が来た。なんでも何年に一度の逸材で、若くして賢者になったらしい。女の子ばかり来たのは運命なのだろう。きっとこの二人のうちどちらかが僕のことを好きになって結婚するのだろう。

 しかし、会ってみて驚いた。賢者としてきた女の子はあの娘のように慕っていた魔法使いの女の子ではないか。やはり僕が保護して育ててよかった。久しぶりの再会に立派に賢者になった女の子は涙目で顔を皺くちゃにしていた。おそらく感動のあまり涙をこらえていたのだろう。人懐こかった昔とはうって変わって大人の女性になった彼女の口数はほとんどなく昔の話は一切しなかった。そして大きな商会からの派遣の女の子が一人加わり冒険が始まった。


 冬のある日、賢者になった女の子を呼び出した。

 いつしか僕はこの人を一人の女性として見ていたのだろう。思い切って告白をした。

 長い年月を共に過ごしたのだ。お互いのことなどすべてわかっている。もちろん受け入れてくれるだろう。


 返事は「気持ち悪い」だった。以来、来ることはなくなった。

読んでいただきありがとうございました。感想・コメント・誤字脱字の指摘・ブックマーク、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ