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ウロボロスの王冠と翼 第六十四話

 なんだ!? とカミロが突如聞こえた笛と号令に驚き振り向いたので放たれた銃弾は俺をわずかに逸れ、前髪をかすめて後ろの壁に当たった。頬を切ったのか、口に何かが垂れて鉄の味がする。それと同時にカミロの背後のドアから大きな盾がいくつも入ってきた。


 突入してきた集団が持っている大きな盾には、七つの宝石の付いた王冠を被ったアホウドリの絵が描かれている。それはエスピノサ家の紋章だ。なぜか我関せずの姿勢を貫いてきたエスピノサ家が救助に現れたのだ。

 あっという間に取り囲まれ、カミロは銃を撃つ暇もなく一瞬で制圧された。後ろ手に抑えつけられて、銃は手から離され床に転がった。


 一人の兵士が「制圧完了!」と笛を再び吹くと「大丈夫かね?」とエスピノサ家の頭目のカリストが後ろ手に悠々と部屋に入ってきた。そして押さえつけられたカミロを見下ろしながら「私まで出るハメになるとはな。とにかく君たちが無事でよかった。表にティルナ様とアンネリさんも見えている」と微笑んだ。それから取り押さえていた男たちに人差し指で指示を出しカミロを外へと連行していった。


 緊張から解放された安堵からか、俺はその姿をぼんやり見つめてしまった。ふと我に返ると、キューディラが鳴った。モットラが鳴らしているようだ。慌てて応答すると、別の場所に連れていかれたシーヴも無事に回収したそうだ。


 カリストに遅れて外に出るとティルナとヤシマも駆けつけていた。土砂降りになった雨の中で心配そうな顔をして俺たちを見ている。それをかき分けてアンヤを抱きかかえたアンネリが駆け寄ってきた。


「大丈夫なの!?ちょっとイズミ!早くオージー治しなさいよ!」


「やだ。絶対ヤダ。誰かさんが死ぬ前提で突っ込もうとしたことは天寿を全うするまで覚えててもらう。弾も貫通してるし、致命傷じゃないから自力で治せ」


「いいーッ! イヂワル! もう、わかったわよ!」


「ははは……イズミ君の言う通りだね。でも、アナ、あんなことはもう二度と言わないでくれ」


 アンネリは「ご、ごめんなさい」と小さく言うと足が震えだした。そして「でもホントはすごい怖かった……」と言って泣き出し、これまでの疲れが襲ってきたのか、へたへたと足が崩れてしまった。雨の中でへたり込む俺たちの周りに僧侶たちが集まってきて、オージーに治癒魔法をかけ始めた。


 戻ってきたモットラは怪我一つしておらず、涼しい顔をしていた。腕の中のシーヴはしっかりと毛布で覆われていて暖かそうにすぅすぅと寝息を立てて落ち着いている様子だ。


 ただ一つ、その姿はおぞましいものがあった。頭の先からつま先、そして持っているブルゼイ・ストリカザまで血だらけだったのだ。どれほど強く降る雨に当たろうとも洗い流されることのなく、体に滴る水を赤くして地面に落ちていく。生きていたものから放たれた脂の混じった匂いが濃すぎて、近づくと吐き気がするほどだ。どれほど浴びたのか、一部はもう乾いている。追いかけた先で何をしたのか、聞きたくもない。先輩さんはおそらく。


 アンネリは血まみれのモットラが抱えているシーヴを早く返してほしそうに何度か立ち上がろうとしているが、腰が抜けてしまって二、三度転び立ち上がれない様子だ。そうしているうちにカミロの尋問が始まってしまい、動きづらくなってしまった。


 傘を持った黒い服の使用人と共にカリストはカミロの傍へとゆっくりと近づいた。見下し少し前かがみ気味にカミロに問いただした。


「君はカミロ・シスネロスだな?」


 カミロは覆いかぶさるように立ちはだかるカリストをぎらぎらと睨め付けた。


「いかにもだ。シスネロス家が、いや貴様ら五家族が見放したカミロ・シスネロスだ。このレトロスタナムの代表だ!」


 降りしきる雨空を見上げて声を上げた。まるで自らの存在を主張するかのように。


「私を殺すのか?いいだろう。やれ。私を屈辱にまみれた地獄に落とすがいい。家族を見捨てた貴様らの掲げる家族のために(パラ・ラ・ファミーレ)な」と言うと肩を揺らしニタリと笑った。降りしきる雨が彼の額を鼻の脇を滔々と流れていく。


 カリストは姿勢を変えずに、首を傾けて眉を上げた。


「わははは。なぁにをぬかすか。重罪人をおめおめ殺すわけなかろう。地獄もなければ天国もまたない。さすれば死は永久の安らぎ。ならば今が世こそ地獄にしなければ贖罪はない。神が欲しければ私こそが君の死神だ」


 カリストは顔を近づけてにっこりと目を細めてカミロを見つめた。そして「家族のために(パラ・ラ・ファミーレ)な」と言うと、細めた目をゆっくり開き、歯をむき出しにして笑うと金色の歯を見せつけた。死の瞬間さえも握りしめた腹黒い魔物のようなおぞましい顔だ。


「さて、双子誘拐の現行犯であることは間違いない。それ以外にも君にはいろいろ尋ねなければいけない。だがあまりにも多くてな。何か言いたいことはあるかね?」


 するとカミロは再び笑い出した。


「スヴェンニーの歴史を聞きたくないか?」

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