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ウロボロスの王冠と翼 第五十八話

「かしこまりました。続けさせていただきます。しかし、この世界の錬金術はすでに太陽を地に落としたのではないでしょうか? それは王の緋色の衣を纏う子すら手中に収めるようなものであった。ゆえに落ちたる太陽は誰の手にも触れられるものになりました。

 誰もが手にできないものであったはずの獅子は象徴の座を追われ、硫黄と水銀を制した錬金術師たちはさらなる高みへと天使に求め、正方形の部屋で沐浴をする月と太陽を用いてウロボロスたちが象徴にとって代わったと、自分は考えております」


 んん、何を言っているのだ、俺は。“裸のラ〇チ”でもこじらせたか。


「賢者様は何が言いたいのだ? 暗号が多くて何かとても深い意味を見出すのだが」


 わからなくて当然だ! 俺も何を言っているのかわからない。だがこれは勢いでイケそうだ。さらに俺はマッドアルケミスト気取るべく首をわずかに傾けた。目を細めて感情を隠し、精一杯薄ら笑いを浮かべて、とどめの言葉を放った。


「さて、そのウロボロスは一匹だけで輪を作るものがいますが、もう一つの方では翼をもつ者と王冠を被る者の二匹であらわされることがあるのはご存じですね。

 そうです。シスネロス家の紋章やレトロスタナムのマークに見られるものです。自分にはその二匹がまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()をそれぞれ象徴しているように思えるのです。

 姿の見えないその竜の()()()()はどちらに味方するのでしょうかね。それがはっきりとわかるときには上下が反転した五芒星は()()()()()、どちらかに囁くのでしょうな。はははは」


 この世界の魔法や錬金術の歴史は元いたところと近しいものがある。ならばと俺はかつて読んだ漫画(両手をパーンと合わせるあの名作)で得た精一杯のにわか知識をはったりドヤドヤと自信にあふれた顔で、言葉一つ一つに必要以上に含みを持たせて言い放った。実は何にもわかってない!


 しかし、そんないい加減な論法でも功を奏したようだ。表情は変えないが、心までは隠せまい。目の前にいる傷だらけの男の眼瞼がわずかにぴくついたのは見逃さなかった。神秘、広啓、双子、これだけエサは十分撒いたなら入れ食いなはずだ。引っかかれ。言葉の中身に何かを感じたのか、顎を押えてしばらく黙り込んだあと、カミロは口を開いた。


「賢者様はだいぶ聡明なお方のようだ。じっくり話を聞きたいものだが、今日はここまでだな。いずれ機会は訪れよう」と言うと動き辛そうに手を叩いた。すると先ほどの案内の男、先輩さんが出てきた。そして「賢者様御一行をお送りしなさい」と先輩さんに指示を出し、再び背中を向けて暗がりに消えて行ってしまった。


 クソ、引っ掛からなかったか。だが、もしこいつらが誘拐犯だとしたら誘拐した双子の親がこの二人だということは絶対に気が付いているはずだ。どこか裏手に隠されていて全員が知らなかったとしても、あのカミロとか言う男は間違いなく気が付いているはずだ。

 そして嗅ぎまわっている俺たちに対して遅かれ早かれ動いてくるのは間違いないのだ。今日は様子を見ているのか、それとも犯人ではないのか何かしてくる様子はない。ここは一旦撤退だ。先輩さんに導かれカミロの部屋を後にした。


「君たちよかったなー。羨ましいよ。僕ですらまともに話したことはないくらいなのに」


 廊下を歩く途中、先輩さんはオージーに話しかけていた。しかしまだオージーは混乱しているのか、曖昧な返事をしたり、口をつぐんだりしていた。時々遅れるオージーのレスポンスの代わりに、できる限り沈黙が訪れてしまわないように俺が「ははは、そうなんですか」と愛想笑いを返した。

 しかししばらくすると、先輩さんも話をしなくなった。オージーのレスポンスが薄くなり、興味のない後輩以外の反応をあしらうために会話の流れを沈黙へ向けたのだろう。


「イズミさぁ、あんた意外と詳しいのね」


 オージーと並び歩いていたアンネリが後ろを振り返った。


「いや、ごめん。知ってる言葉テキトーに並べて言っただけ」と先輩さんには聞こえないように小声で言った。


「獅子のことなんてボクたちは昨日バスコさんの家の資料で初めて知ったぐらいなのに」


 聞こえていたのか、オージーは釈然としないようにポツリと呟いた。


しばらく進んだ後先ほどの廊下のドアに戻り、先輩さんがドアノブを開けると「あとはわかるな? 敷地内は広いけど、寄り道はしないでまっすぐ帰れよ?」と言って俺たちを外へと出すためにドアを開けて先に外に出た。しかし、先輩さんは突然うおっと声を上げ仰け反った。


 建物の外には、統一されたデザインではないが皆一様に黒いローブを羽織った男や女がドア前を円形に囲むように立ちはだかっていたのだ。「おとなしくしろ。お前たちは包囲されている」と彼らは杖を構えている。


「え、君たち、何したの?」と先輩さんが両手を上げて後ずさりをしながら聞いてきた。


 どうやらレトロスタナムの錬金術師たちに包囲されてしまったようだ。


 これは黒だ。双子はここにいる。

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