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ウロボロスの王冠と翼 第四十八話

 俺は馬鹿なことをした。またしても余計なことをしてしまったのだ。


 いきり立った挙句、本拠地かもしれないところの親玉に突撃。しまいにはその親玉に壁ドン。余計なことをして思い切り目立ってしまった。何も知らないふりをして物陰でこそこそと探ればよかったのだ。


 まだ寒さがわずかに残る春の夜風が過熱状態だった頭をゆっくりと冷やしていくと、覚えていた謎の達成感を流し去り、その代わりに後悔と罪悪感で体が冷えるよりも先に心を冷やしていく。

 夜もぽっくり更けたラド・デル・マルの街灯は立ち並ぶ家々の白い壁とオレンジの屋根を鮮やかに照らしている。人通りも少なくなった膨張色に光る通りは見通しが良くなり、どこまでも続く辻はまるで終わらない迷路のようだ。


 シルベストレ邸の門へとつながる階段でどうしたものかと、場所も構わず頭を抱えながら座り込んでしまった。勝手に調べると言ったが、どこから調べればいいのだ。それに双子の件もある。どちらも急がなければいけないというのに。怒ったり、興奮したり、少しでも我を忘れるととんでもなく余計なことをしてしまう性格を直したい。そんな様子を見かねたのかティルナがおずおずと近づいてきた。


「あの、イズミさん。どうしたんですか?」


「いや、何をやっていたんだか……。馬鹿なことしちゃったよ。くぁぁぁ……」


「い、いえ、ヘマさんはとても美人ですから、あ、ああいったことを……してしまうのは男性なら、あわわ、て、じゃなくて、あの、タバコについてです。何か大事なことを言っていたような気がするのですが」


 ティルナは、階段に座り込み頭を抱えて小さくなった俺の肩に手を伸ばし、一度躊躇した後遠慮がちにそっと手を置いた。そして首を傾けてのぞき込んで、言葉を待っているかのようにまっすぐ見つめてくる。


 共和国で鑑定してもらった紅蓮蝶(マリポーサ)に依存性が高い物がはいっていたことを言ってしまえば早いのだが、彼女はカルデロンの人間だ。五家族が絡むとなると。


「あ、もしかして序列を気にしていますか?」


 何も言えずに恨めしそうに彼女を見つめ返してしまったようだ。すぐ顔に出る俺は悟られるのはわかっていたが、あまりにもすぐさま図星を衝かれてしまい、首を下げるとウッと喉を鳴らしてしまった。それを見たティルナは伸ばした膝に手を載せ申し訳なさそうに笑っている。


「大丈夫ですよ。私はイズミさんと行動している間はカルデロンと言う名前ですが、ヴィトー金融協会から派遣されたティルナです。だから序列はあまり気にしないでください」


「それはつまりカルデロン本家には言わないということでいいのか?」


「うぅん……そういうわけにはいかないですが、柔軟な対応が必要だと思うんです。家族の序列が問題解決の足かせになるのはよくないと兄は言っています。だから理解を得られると私は思います」と少し困ったように答えた。


 国内の問題を無視するわけにはいかないメンツもあるのだろう。しかし、ここでうずくまっていても話は進まない。双子も助けられない。俺はティルナを信じ、思い切って話すことにした。


 口を開き「あのさ、」と話を始めたその時だ。突然、白く明るい通りの方から、よぉ、と軽い声をかけられた。


「げっ! おれのこと捕まえたペアじゃねぇかよ!」


 よく響くその声の方へ振り向くと、そこにはブルゾンとジーパン姿の男がいた。なぜかヤシマがそこにいたのだ。


「お前がここにいるって聞いてな。来たぜ。全部お前任せってのは、やっぱ、なぁ……?へへへ……」


 どうやらタバコが気になり、俺を追いかけてわざわざイスペイネまで来たようだ。彼は後頭部を掻きながらすぐそばまで来ると、よいしょと俺の隣に腰かけた。


「シャレにならないことになってるよ。俺も余計なことしちまったし」


「あれからどうなったんだ?とりあえず話してくれよ」


 俺はティルナの顔を覗き込み、彼女に目配せをした。彼女が小さく頷いたのを見て「二人とも聞いてくれ」と昼間の出来事を話した。


 ヤシマから預かったタバコをある専門家に鑑定してもらった結果、その中にタバコの葉っぱ以外の依存性が高いものが入っていたことを伝えた。するとヤシマは「マジかよ」と頭を抱えて呻り始めた。その横でティルナは厳しい顔になっている。話が進むにつれて腕を硬く組み始めた。


 全てを話し終えると憔悴した様子のヤシマが瞼を強く押さえた。


「お前に一本渡したときからなんとなく感じてたが、おれ、またとんでもないことを……。完全に運び屋じゃねぇかよ」


「知らなかった、は言い訳にならない。場所が違ってもヤバいことはヤバいからな?」


「何やってんだよ。マジで。お前の前で反省するって言ったばっかじゃねぇかよ」


 鼻の詰まった声でそう言うとヤシマはがっくりと肩を落とし、小石が転がる石畳へと視線を落としている。

 俺は少し追い打ちをかけるようなことを言ってしまった。背筋を伸ばして息を吸い込み辺りを見回すと、街灯も消え始めていて、月明かりもない夜の街は暗闇に落ちていきそうだ。

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