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真っ赤な髪の女の子 第三話

 それから一週間がたったある日。


「おはようございます。イズミさん! カミーユももう来ていますね。いつも通り反対側にいますよ。シバサキさんは、まだいらしていないみたいですね」


 反対側にはカミーユ。いつもとほとんど同じ場所で壁に背中をもたれさせている。レアが来て五分もすれば集合時間になる。しかし、集合場所と時間にシバサキは現れなかった。昼過ぎまで来ないことはしばしばあったので、お昼を少し過ぎたあたりまで待機したが結局現れることはなかった。あくる日もシバサキだけは現れなかった。その次の日もその次も。


 ここまで来なくなるのは何か問題でも起きたのではないかと考えるのは普通だ。そんな中、俺はと言うと心配することはなく、なぜかシバサキが来ないことに小さな喜びを覚え、来なくなってからの毎朝心の中では(今日も来ないでくれ)と願っていた。上司が来ない、と言う事態ははっきり言って異常だ。だが誰一人心配している気配がない。もちろん俺もだ。



 そしてシバサキが来なくなって一週間。


「今日も来ませんね。シバサキさん。来なくなって一週間ですね。どうしたんでしょうね」


 春が近いのか雪ではなく雨が降っている。レアは集合場所である広場に隣接した店の軒先テントの下に置いてある木箱に座り足をばたつかせて退屈そうにしている。いつも離れて待つカミーユもさすがに雨の日は同じテントの下で雨宿りをし、難しい表情を浮かべ腕を組んでいつ来るのかと待ち構えている。臨む広場の石畳にまだ寒くて冷たい雨粒が落ちる音が響いている。しばらくそれだけを聞いていた。

 レアがやっとどうしたのかと言い始めたのだ。上司がいない異常事態を黙って過ごすのはこれ以上はないな、と悟った。


「わかりません。誰か連絡先知らないんですか?」


 俺以外の二人とも何も言わない。レアはため息をこぼして、カミーユは目をつむり、首を横に振った。

誰も知らないのだ。俺自身は別に教えたくないわけではなく、他に二人も同様なのだろう。問題はそこではなく、シバサキ自身が連絡先を教えたがらないことだ。

 仕事の時以外は業務連絡をすべきじゃない。そのほうが君たちも落ち着くだろう?との理由で誰とも連絡先を交換しようとしないのだ。仕事用の連絡先は知っているが、仕事以外の時は連絡手段となるマジックアイテムの魔力バッテリーを落としているのだ。

 確かに、労働時間外に仕事の連絡をするのは面倒くさいし気が休まらない。本来は当たり前のことで、どのくらいの人がそれを理解しているのかは、労働時間外の連絡について議論がしばしばなされるあたりその程度なのだろう。ただ、問題はそういうことではないのだ。時間外に連絡を要する事態を彼が想定していないことなのだ。

 一週間も連絡をしない、ということがどれだけ周りに迷惑をかけるか。こちらからとるにしても、わからないのではどうしようもない。



 さらに二週間たったある日のことだ。拠点にある郵便受けに何かの気配を感じ、普段開けもしない郵便受けにはチラシなどがたくさん放り込まれていて扉を開けるとだばだばと落ちて散らばった。それに混じって封筒が出てきた。

 レアがしてくれた商会への問い合わせの返事が来たのかと思い落ちた封筒をその場で開けるとまずシバサキの名前が目に付いた。突如として俺宛への連絡が来たのだ。うわわっと嫌なものを見たような気分になりつつも見ないわけにはいかないので、急いで開いた。


“みんなは大丈夫か。僕は恩人が危篤になったので急遽出発することになった。かなり遠くに行くのでしばらくは戻れない。その間、給料は出ないが自由に行動してかまわない。P.S.なぜ二週間も不在にしているのに連絡をしてこないのか。そういう連絡をするのは新人の仕事だ。依頼斡旋施設に問い合わせれば僕の連絡先などすぐに把握できるはずだ。これから賢者になる者の下につくことを自覚してしっかりやりなさい”


 開いた口がふさがらなかった。この人の行動原理が理解できないし、いくつのスタンダードを持ち歩いているのだろうか。

 おそらく俺に送り付けたのは、ほかでもないこの俺が一番言いやすいからだろう。シバサキがレアやカミーユには強く出られないのは普段の様子を見ていればわかる。この手紙をレアにもカミーユにも見せたくない。くしゃくしゃに丸めてポケットに押し込んだ。


 二人には、連絡が来てしばらく戻れないと、それだけ伝えることにしよう。

 おそらく返信をしないと後々にブチ切れて灰皿で殴られるかもしれない。その前に剃刀の入った封筒が来るかもしれない。

 それはそれでとても嫌なのだが、不愉快すぎるので後回しにしてしまおう。

読んでいただきありがとうございました。感想・コメント・誤字脱字の指摘・ブックマーク、お待ちしております。

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