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ウロボロスの王冠と翼 第四十二話

 それからもルカスは上機嫌に話を続けていた。食事中はせめて楽しい方がいいだろうという彼の計らいのようだ。アンネリとオージーは話には参加せずにいたが、黙々と食べていた。


 食後のコーヒーも終わり、賑やかな雰囲気に疲れてしまいベランダに出た。少し高いところにあるのか、大きな港と海が見えてその先の夜空には、天の川ではない星の河が見える。


 双子の捜索が思うように進まない。無事であるという前提で話を進めているからのんびりになっているわけではない。


 俺がしなければいけないことは双子捜索だけではないのだ。ユリナやシローク、ダリダ、そして間接的にレアが協力してくれているラジオ計画も進めなければいけない。シバサキの身柄の確保と共和国への引き渡し、まだ動き出したばかりの連盟・共和国間和平の確実な実現。それからもう一人の女神の捜査。

考え出すと押しつぶされてしまいそうだ。額に手を当て、顔を擦った。目をぐっと押すと視界がにじんだ。


 こういう風にしていればアニエスは何も言わずに傍に来てくれた。首都ではないので連れて来ても良かったのではないだろうか。だが今さら戻るのも時間がかかってしまう。


 ああ、俺寂しいんだな。



 星を遮り薄く光る夜の雲をぼんやり眺めていると背後からドアの軋む音がした。


「ここにいたのかね? イズミ君、探したぞ」とベランダで黄昏れている俺の様子を見たルカスがやってきたのだ。


「ラウラとローサに挨拶をするように言ったのだが、どうも君の仲間と話が合うようでね。客人を一人にして申し訳ない。だが、イズミ君はパーティーが苦手かね?」


 ちらりと窓の中を覗くと、オージーとアンネリと何か意見交換でもしている様子のラウラとローサの姿が見えた。


「苦手ではないですね。参加するのは好きだけど、こうして遠くからみんなが楽しそうにしているのを見るのがもっと好きです」


「あくまで主役は嫌と言うのか」と言いながら手に持っていたコーヒーを渡してきた。


 小さく乾杯した後、湯気の立つそれを一口すすると「ところで、どうだね? 進展はあったか?」と尋ねて来た。


「いえ……」


 俺は手すりの上にカップを置き、膝を載せた。ルカスも手すりに寄りかかり、目をつぶって俯き加減に首を振った。


「我々も調査をしているのだが、どうも具体的な情報がつかめない。錬金術師の団体は自治領内に多くてな。人数は少なくても数が多いのだよ」


「助かります。教えていただいたシスネロス家に当たってもあまり良い対応をしてもらえなかったので」


 それを聞いたルカスは腕を組んでしまった。


「まったく、彼らの稼ぎ口は、魔術関連事業と何やら胡散臭い鳥の体の構造研究、それから鉱石採掘と多岐にわたるゆえに色々忙しいのだろう。しかし、あそこの業務は、最近は採掘ばかりになっているからな。

 鉄や銅は必要なので主要産業にしているようだが地域的に豊富なリン鉱石の採掘もしているらしい。何やら大量に掘り出しているらしいがいったい何を考えているのか」と言うと、ふぅーんとため息をして右眉毛を弄り始めた。


「シスネロス家はどうも貴族としての威厳がない。魔術研究や開発に精を出すのは構わないのだが、それに走ってしまうと周りが見えなくなってしまう。五家族の会議や行事もすっぽかしてしまうこともあって、以前から問題にはなっていた。それにシルベストレ家ともわが家以上に折り合いが悪い。もはや除外し四家族としてしまっていいのではないだろうかと疑問に思う」


「そんなに仲悪いのですか?」


「ヘマもあんな鳥糞屋など潰してしまえとよく言っているのだよ。彼女もあまりよく思っていないようなのだ」


 困った表情をさらに曇らせた。


「とはいうものの、そのシルベストレ家もだ。シスネロス家よりも黒い話を聞いたことがある。非常に高いタバコを売っているそうだ。それもただ高品質で高いだけではなく、プレミアを出そうとしているのか、秘密裏で紹介のみで、我らがイスペイネ領では売らず余所の自治領で販売しているらしい」


「おたくのコーヒーもなかなか高いじゃないですか」


 俺は冗談っぽく言った。するとルカスは困ったように笑った。


「君はなかなか言う奴だな。ふはは。しかし、秘密にしたり、紹介のみにしたりはしていないぞ。高いが街に出れば普通に買える」


 笑顔だったがすぐに表情を戻して前を向いた。


「それがどうも、高いのはさておき、他のものに比べて病的に依存性が高いと噂だ。なんでも吸うと攻撃的になるとか、慣れると一本じゃ物足りないとか、なんとか」


 それを聞いたとき、冗談にしたのは間違いだったと後悔した。普通のタバコのニコチンは依存性が高くあまり勧められない。だが、それ以上に依存性が高いとなると……。


 俺は顔を引きつらせていたのだろう。前を向いていたルカスが俺を見ると微笑んだ。


「あくまで噂の話だ。気にすることはない。あまり信用しすぎるな、と言うことだ。さて、暖かくなってきたとはいえ、夜の外はまだ寒い。冷えてしまったな。もう一度、温かいコーヒーを御馳走しよう。夜も更けているからデカフェでな」とルカスは俺の肩を押して部屋の中へと導いた。

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