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真っ赤な髪の女の子 第二話

 ある昼下がりのことだ。昼休み明けのシバサキのタバコの待ち時間、レアが彼女の手より少し大きい冊子を読んでいた。以前から時々似たような冊子を読んでいるところを見かけていたので試しに何か聞いてみると見ていたページを顔の前に開いて見せてくれた。


「これですか? うちの商会の社内報ですよ!役員人事から四半期売上、会員住所変更、福利厚生施設、逝去会員まで何でも書いてあります」

「へー、個人情報まみれじゃないですか。大丈夫なんですか?」

「大丈夫です!盗まれたり無くしても商会関係者以外は読めないセキュリティ魔法がかかってるので」

たまたまレアが開いたページに見覚えのある老夫婦の絵が描いてある。どうしても気になり「少し借りてもいいですか?」と言う前から社内報に向かって手は伸びていたが、レアは拒むことなく自然に渡してくれた。


「読めないとは思いますが……どうぞ」


 社内報を受け取り、挿絵の横のコラムを読むと



『高齢会員のコラム』

 昨今の会員の高齢化に伴い対策としてフランチャイズ契約の年齢制限引き上げについて。グレタ街道で先ごろまで活躍されていた会員であるカルデロン夫妻が現在(連盟新政府歴220紀新年号掲載時)重病に伴い、今後の復帰は厳しいとの見方。

 この夫妻は過去40年間において定住せずわが商会の商品を扱われておりました。自身も高齢でありながら、会員の高齢化を憂慮しておりました。新しい世代の加入率が低く、その数少ない若い世代ばかりに負担を負わせるのは組織の衰退の原因と考え、契約年齢制限の引き上げ、若い世代への福利厚生の充実等を訴え続けていました。このたびこの栄誉ある会員の意思を尊重し来年度上半期経過後から実施を検討しています。つきましては年度末の総会にて採択を行う予定です。


と書いてある。


「あれ? イズミさんなんで読めるんですか?やっぱり変な人ですね~」


 不思議がるレアをよそに記憶を整理した。グレタ街道と言えば、最初に気が付いたあの街道だ。間違いない。この夫婦は来たばかりのころに世話になった人たちだ。

 病状については重いと言うこと以外何も書かれていない。ただ、復帰できないということはかなり大変な状態なのだろう。特殊な加工をされた社内報を読めたことよりも、恩人が死にかけていることのほうが気になって仕方ない。


「レアさん、これいつ発行されました?」とページをぱらぱらとめくり奥付を探した。しかし最後までめくるもどこにも書いてはいなかった。

「つい二週間くらい前でしょうか?どうかしましたか?」

「このコラムの老夫婦、俺の恩人なんですよ」


指を挟んでいた先ほどのページを再び開くとレアは覗き込んだ。


「ああ、懐かしいですね! カルデロン夫妻はグレタ街道ではちょっとした有名人ですからね。そういえばイズミさん、あのあたりにいましたね」

「人違いかと思いましたが、挿絵がそっくりで名前も一致するので間違いないと思います」

「そうなんですか。大丈夫ですかね? お見舞い、行きますか?」

「そうしたいです。けど……」




「恩人が死にかけてる? そう。大変だね」


 切り株に座るシバサキは興味なさげにタバコを箱からだし咥えた。ポケットからライターをだしカチカチと音を立てている。

 お見舞いに行くために休みをもらおうと相談に来たが、それを言わせようとしないようにしているのか、話をぶつ切りにされた。まるで話など聞く気などないと、ライターに火がついているにもかかわらず執拗に着火音を立てている。明らかに邪魔くさいのだろうと誰が見ても分かるほどだ。その態度に言葉を選んでしまい、何を言おうか困っているのを察したのかシバサキは口を開いた。


「あれ。まだ何かあるの?だからどうしたの?まさかズル休みとかいうんじゃないだろうな?孝行なんて死んでからやればいいんだよ。僕は四月から賢者になるんだから、そんなペースじゃこれからやってけないよ。僕今休憩中だからね。そこんとこよく考えて」


 邪魔をするな、さっさとどこかへ行けと、うっとうしいものを見るように一瞥すると迷惑そうな顔をしてタバコの煙が上るのを見あげた。

 どうやらお見舞いに行かせる気は毛頭ないようだ。




「……と言うわけなんですよ」

「やっぱり、ですね。そのご夫婦は商会関係者ですよね?私が問合せしましょうか?」


と仕方なさそうな表情をしたあとに提案してきた。

 確かに彼女は商会のエリートだから会員の情報などお手のものだろう。しかし、レアは優しく、その優しさにずぶずぶとあやかるのが当たり前になりつつあり、あれやこれやと負担かけすぎている。借金だってまだ全然返せていないというのにこれ以上は申し訳が立たない。

だが、渋る表情を見るや否やレアは答えた。


「いいんですよ! イズミさんは気にしないでください。問い合わせもすぐ終わりますから。ただ返信がちょっと遅くなるかもしれません。イズミさんちに直接届くようにしときますね!」

「すいません。本当にすいません。お願いしてもよろしいですか?」

「イズミさん、謝るんじゃなくてありがとうって言ったほうがいいですよ。任せてください!ふふふ」

「あ、ありがとう、ござます」


 ここまで献身的にやろうという姿勢をまぶしい笑顔のおまけつきで示してくれたレアには断ることは通じない。押し問答になるくらいなら素直にまたしてもレアのやさしさにあやかろう。しかし、長い間感謝の言葉を口にしなかったので普通に言うことすら忘れていた。

読んでいただきありがとうございました。感想・コメント・誤字脱字の指摘・ブックマーク、お待ちしております。

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