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ウロボロスの王冠と翼 第三十四話

 暑さと息苦しさだけの無意識の世界からたたき起こされた朝は、まるで睡眠時無呼吸症候群のイベント最中に目が覚めたような気分だった。体を起こすと汗だくで呼吸も荒い。


 開けっ放しのカーテン越しから見える空はまだ東側が白んでいたころだったが、眠れなかったのか廊下を歩く二人の物音で目が覚めた。

 昨夜から結局眠り続け、そして再び起きることもなく朝まで寝てしまったようだ。ベッドから体を起こし今さらだがコートをハンガーにかけて、窓を開けると湿って生暖かい風が入り込んだ。


 こちらに転生してもう3年ほど経ったが、ここまで湿度が高かったのは初めてではないだろうか。夏休みの旅行先で朝早くに窓を開けたときの、起き抜けの肌に妙にはっきり感じる湿気に似ている。


 それからすぐに陽は登り、ラド・デル・マルの街は彩鮮やかになっていった。しかし綺麗な眺めにうっとりする間もなく朝食もそこそこに、俺たちは朝早くから五大家族の屋敷を訪れることにした。



 まずは序列通り二位であるエスピノサ家へ向かった。王族だからそれはそれは絢爛豪華な王宮に住んでいる、と言うわけではないようだ。彼らの屋敷はティルナに泊めてもらった別宅と同じような作りでやや大きい建物だった。

 立派な門の脇には詰め所のようなものがあり、そこにいた警備員は組んだ足を机に載せてだらしなく本を読んでいた。


 近づいて窓をノックすると、最初二回は無視されて三回目にしてやっと面倒くさそうに窓を開けた。目と口を半開きにした警備員に頭目との面会を申し込むと、彼に鼻で笑われた後、頭目は非常に忙しいので1年以上前からアポイントメントを取っていないので不可能だ、来年に出直してこい、やれやれ、と思い切り窓を閉められバッサリ断られてしまった。そして読んでいた本を再び開いた。

 この野郎、いい加減なことを言っているのはバレバレだ。しかし、下眼瞼をぴくつかせる俺たちの背後でもじもじしているティルナの存在に気づくや否や、警備員は急に態度を変えて慌てだし、転げ落ちるように椅子から立ち上がると頭目に連絡を入れた。

 すると三分と経たずに頭目自ら門まで迎えに来て警備員を叱りつけた後、冷や汗を流しながら逆に面会を申し出てきた。ティルナが昨夜言った通り、イスペイネではカルデロン家はその姓を持つだけでどの家族の頭目よりも偉いようだ。


 ティルナの事前情報では、エスピノサ家現頭目のカリストの年齢は50代後半で、領主としての仕事は熱心にやるらしい。領主としての業務はやることが多いので、できる限り関係のない事(特にもめ事)には干渉したくないと言う、超が付くほどの“事なかれ主義”だそうだ。

 謁見の間のようなところへ通されて話をするときも跪かなくていい、と言われた。話せる人間なのかと思いきや、ただ話をさっさと終わらせたいだけの様子だった。

 案の定、双子誘拐の話をするや否や、座っていた玉座の肘置きに頬杖を突きその手のひらで口を覆うと、面倒くさそうに眉を寄せた。彼はとにもかくにも領主の仕事が優先であり、双子のことなど露とも知らずという話ぶりだった。

 それどころか、魔法など貴族にとっては道楽に過ぎないという考え方のようで、全くと言っていいほど興味がなく何も知らないようだった。大した情報も得られることはなく、家を後にすることになった。



 それから、次に訪れるのは同列三位のシルベストレ家とブエナフエンテ家だったが、同列と言うのでどちらを先に訪問するかで悩んだ。両家の仲が悪いとなると後だ、先だ、でどちらかから反感を買うのは間違いない。先ほどのエスピノサ家の訪問時の対応から考えるとティルナがいなければ話にならないので二手に分かれることはできない。


 悶々と悩み続けた結果、使われた封筒がブエナフエンテ家のものということでまずそちらへ向かうことになった。そこの頭目であるルカスは人を感銘させるほどに弁舌が立つ男だそうだ。客をもてなすのも大好きだが、そのせいで浪費家なところもあるらしい。客人として迎え入れてさえもらえれば、話は聞いてもらえるだろう。そういう性格もあり、俺たちはそちらを先に選んだ。


 ブエナフエンテ邸はカルデロン別宅と同じくらいの大きさだった。もちろんの如く門の前には詰め所があり、そこで頭目へのアポイントメントを取ることにした。

 わざわざ俺たちが話しかけて断られた後、ティルナの存在に気付かせるまでの一連の流れが面倒なので、彼女に先陣を切ってもらうことにした。彼女は眉を寄せてでもでもと嫌がったが、アンネリに強く言われてしぶしぶ切り込み隊長をやることになった。

 だが、彼女が不安に思うほど会話の必要はなかった。ティルナの顔を見た途端、どうぞ、どうぞと言って門を開けてくれたからだ。

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