表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

225/1860

ウロボロスの王冠と翼 第二十一話

「イズミ君、どうだった?」


 向かいからやってくるオージーは右手を上げている。少し期待をしていたのか、笑顔が見える。その姿に俺は思わず顔をしかめてしまった。


「どうも、みんなそれぞれに忙しい様子で来られないみたい。すまん」


「……そうか」


 俺の返事を聞いた彼は肩を落とてしまった。完全に俺の統率力不足のせいであり、申し訳なくなり下唇を噛んだ。


 集合場所にしていた門付近は陽が傾くにつれ人通りが増えてしまったので、門を抜けた先の小さな路地に集合場所を変更した。

 そこでしばらく待っていると近づてきたオージーとアンネリの後ろをもう一人誰かがぴったりとついてきているのが見えた。歩いてきた方向が同じと言うわけも出なさそうで、二人が集合場所で止まるとその彼女も二人の後ろで隠れるように立ち止まった。


 褐色肌に銀色の髪は後ろでまとめられていて、大きな瞳は青に近い紫色をしている。垂れた目じりのせいでおっとりした雰囲気をしている。背中には身長と同じくらいの大剣を背負っていて、風貌はカミュに近い。初対面の人間に緊張しているのか、それとも持て余しているのか、髪の毛を人差し指に巻き付けてそこを一心に見つめている。少し頼りなげな印象もあるが、おそらく剣士だ。マリソルを見たことはないが、まるでグリューネバルトの昔話に出てきた彼女を思わせる。そしてだいぶ若い。おそらくイスペイネ系だろう。二人についてくるような動きからすると、赤の他人ではなさそうだ。


「オージー、後ろの方はどちらさまで……?」


 俺は少し首を傾けて、二人の間から見える彼女のことを尋ねた。


「えっ……ああ、失礼。紹介が遅れた。ティルナさんだ」


 名前を呼ばれると一歩前に出て、上目遣いで俺を見上げている。近づくと意外と身長が低いことに気が付いた。


「お二人が探していたのは、こ、この人ですか?」


「そうよ。この剃り残しが尋ね人よ」


 顎をさすった。首筋に硬い髭がある感じがする。


「ボクたちが迷っていたところ助けてくれたんだ」


「ティルナさん、二人をありがとうございます」


 お礼を言おうと一歩近づくと、避けるように肩をすくめてずいっと後ずさりをした。


「あ、会えたみたいでよかったです。私、これから人に会わなければいけないので。それでは。そういえば……」


 ティルナが突然話を止めた。何事もないかのように表情を変えずに目だけで左右を見ると「つけられてる」と小さな声で囁いた。


 気が付けば陽もだいぶ傾き、建物と建物の間の路地に光は差し込まず、人も少なくなっていた。影の中は冷たく、静けさが満ち溢れている。


「あ、わ、私、おなか減りましたー!迷子のお礼にご飯奢ってください!大通りの人気のレストランがいいです!」と大声で言うと小さくウィンクをしてきた。どうやら人通りの多いところへ行くつもりだろう。人目に付けば襲われる可能性は低くなる。


「……そうですね!早く行きましょう!」と言って足早に大通りへ向かった。


 西日が当たる大通りにでるとまだ大賑わいだ。それともこれから夜の街になり種類の違った騒がしさになるのだろうか。この世界に来てからここまで多くの人を見たのは初めてかもしれない。ティルナは胸の下あたりで手を合わせてもじもじしながら言った。


「あなたたち何かされたのですか? ただの田舎者、あっ、あの、遠くから来た人ではないですね。気を付けてください。それでは」


 アンネリの眼瞼がピクリと動いた。彼女はさっきからキリキリとしたオーラをずっと発しているような気がする。


「ご飯はいらないんですか?」


「結構です。あの場から離れるための言い訳です。気を付けてくださいね。では」


 そう言うとティルナはかけて行き、少し離れたところで一度立ち止まり首だけをこちらに向けてちらりと見た後、再び駆け出し人込みの中へと消えて行った。

 俺たち三人は昼過ぎから動き続けているので、そろそろ食事にした方がいいのではないだろうかと思い二人に提案した。だがやはり食欲はあまりない様子だ。そこへキューディラが鳴った。カミュだ。


「イズミ、お待たせしました。先ほどの誰かを派遣する話についてです」


「おっけー。誰が来るの?」


「私の同僚のカルデロンの者が向かいます。大通りのカフェのユーヌ・メゾンジュに向ってください。大通りとの交差点のトリコロールのテントがある大きな店なのですぐにわかると思います」


「どんな人?」


「イスペイネの人なのですぐわかると思います。イズミさんとも縁があるカルデロンの者ですよ」


 ふと先ほどあった彼女の後姿を思い浮かべた。


「さっきイスペイネの人に会ったけど」


「イスペイネ人は首都に多くはないが少なからずいます。まさかとは思いますが。とりあえずカフェに向ってください。きっと彼女は大きな力になりますよ」


 俺とカミュの会話を聞いたオージーとアンネリは早く行こうと言わんばかりに鼻の穴を膨らませている。早く行った方がいいだろう。時機に日も暮れる。その前に彼女には会っておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ