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ウロボロスの王冠と翼 第十九話

 オージーが開いたポータルから足を一歩踏み出すとそこは大きな道沿いの芝生の上だった。よく手入れされているのか同じ長さに刈られている。辺りを見回すと大勢の人が目の前の東西に伸びた街道を行きかっている。


 連盟政府の首都であるサント・プラントンには初めて訪れた。やはり眩暈がするほど人が多い。道の脇から見る人込みはあまりにもごみごみとしていて、平日朝の新宿駅構内のようで、ぼんやり立ち止まっているとどこかへ流されてしまいそうだ。


 ポータルを見て周りにいた人々が少しだけざわめいている。使える人間は少ないので珍しいのだろう。


「ここは街の真ん中?ものすごい人が」


「まだ外よ。あんた、どんだけイナカモンよ?」


 アンネリは呆れた表情をしている。うるせ。かっぺで悪かったな。これまで訪れた大都市はグラントルアぐらいだ。そこも確かに人が多かったが、密度でいえばこちらの方が高い。よく見れば道以外はそこまで混んでいないので、密集しているだけだろう。


 たどり着いた芝生の右手には、南北に延びる川がありそこにレンガ造りの大きな橋がある。馬車が三台くらい行きかえそうなほど大きな橋だ。欄干から下をちらりと見ると船着き場も見える。川には運ばれてきた大量の木材や、袋や箱を山のように積んだ舟が浮かんでいる。

 街道と流通の要所になるため人も集まり大きく発展していったのだろう。橋の先には同じ色のレンガでできた街が並んでいて、その奥に見える遠くの小高い丘の上には少しくすんだ白い建物がある。長い年月風雨にあたり歴史を感じさせるそれは、高さはないが丘の上にあるせいか大きく見える。おそらく城だろう。

 天気も良く、広い川幅のおかげで街を一望できて見晴らしも抜群だが、首都を観光しに来たわけではないので俺たちは足早に街の中へ向かった。


 長いレンガの橋を人にもまれながら渡りきり、街の入り口である大きな門の前に着いた。話をしたいのだが人の流れが多く立ち止まると邪魔になるので門の脇の人の流れがないところに集まった。


「二人は街で捜索をしてくれ。でも二人一組で動くように」


「あんたはどうすんの?」


「俺は捜索に参加してくれる人を増やしにいく」


「そうだな。それはイズミ君に任せよう。ボクたちは聞き込みをする」


「人気の少ないところにはいかないようにしてくれ。集合場所はここで」


 そして街の門を抜けて二人と別れた。二人を見送った後、俺はキューディラでカミュと連絡を取った。彼女に捜査協力を求めるためだ。

 ヴィトー金融協会本部で直接会えないかと言われたので会いに行くことになった。本部の建物は街の中心部にあると彼女に教えてもらったのでメインストリートを歩き始めた。


 しかし、行き交う人は外以上に多く、なかなか進めないせいなのか、だいぶ歩いてからやっと道沿いにヴィトー金融協会の本部が見えた。

 レンガ造りの建物が並ぶ中で珍しく、街の外から見えた城と同じ造りをした白い建物だ。“(シャトー・)(デ・フラン)(ブラーシュ)”という正式名称はあるが、もっぱら“金満宮(ドゥ・ランジュ)”と言わずもがな金満ぶりをバカにした方が有名だ。

 建物の前には横に広いアプローチ階段があり、建物の大きさ故に小さく見える出入口に向って行ったり反対に出て行ったりする人が縦横無尽に上り下りしている。俺は入り口に向かう人の波に乗り、回転ドアを抜けて受付に向かった。

 しかし、事前に面会の予定が入っていると伝わっていなかったようで受付で少々足止めを食らってしまった。そこで十分ほど待たされると人の少ない広めのラウンジへと案内された。


 しばらく椅子に座って待っているとかつかつと足音を立ててカミュがテーブルの傍へとやってきた。カミュは仲間として剣を奮っていないときは本部の銀行の職員として働いている。仲間として行動しているときは白い鎧を着ているが、ここで働いているときの恰好は見たことがない。

 聞いた話では、シンプルだがドレスのようなものを着ているらしい。しかし、予想は裏切られた。彼女はいつもの鎧でもなく、また制服でもなく、なんとスーツを着ていたのだ。白のパンツスーツにヒールを履いて長い足をさらに長く魅せていて、とてもよく似合う。が、まだ時代を先取りしすぎているのではないだろうか。他の女性職員がドレスに近いものを着ているので、少し目立つ。

 ユリナが共和国で着ていたのを気に入ってこっそり持ってきたらしい。フリルがとても少なく邪魔にならないので職場では動きやすいようだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その姿に目を見開いて彼女を見つめてしまった。だが、彼女のキャリアウーマンぶりに視線を奪われている場合ではない。俺は双子を早く見つけなければいけない。さっそく本題に入った。


「話は省いちゃって悪いが、お願いできるか?」


 彼女は手に持っていた書類をテーブルに置くと、椅子を引いて座った。そして目を閉じてため息をした。わずかに見えているブラウスのフリルが揺れている。


「イズミ……、誠に申し訳ないが捜索には参加できないです」


「なんでだ!?」


 当然手伝ってくれるものだと思っていた俺は面食らってしまった。


「共和国から連盟政府への和平交渉を行う通達があったことで色々とありまして、このところ国との急な話し合いが多いのです」


「金融協会は政府からは独立したものじゃないの?まさか、あっちで監禁してたワタベの件か?」


「それも関係していますね」


 彼女は金融協会と連盟政府との関係と、現状での立場を簡単に説明した。

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