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ウロボロスの王冠と翼 第十話

 「馬鹿にしているわけではないです。こんなことになるならもっと議論をしてほしいってことです。ストスリアは学問の街だから杖よりもペンを持ってほしいものです」


 両手を上げて後ずさりながら慌てて弁解した。すると彼女は困ったような顔をして杖を下ろした。そして、「む、確かにそうだな。そうなのだ。あいつらが、革新派が全て間違っているわけではないのだ。同じ志を持つものとして我々古典派ともっと議論を交わすべきなのだ!だが、賢者は歴史に学べというのに、やつら歴史や神話の授業までも妨害してしまうのは許せない」と言って小さなこぶしを握った。


 ああ、ややこしい。どうやら古典派と革新派は真っ向対立しているわけではないのか。心臓が飛び出るかと思った。


「自分は魔法に関してはてんでシロウトなもんで……何もわからないんですよ。よかったら少し教えてもらえませんか?」


 こういう学者気取りの学生は教えろというとべらべらと話したがるものだ。案の定、彼女は腰に手を当てて自信にあふれた笑顔で鼻から吐息をふんすと出した。ツインテールがぶんぶん揺れている。


「よかろう! 魔法が使えない貴様のような存在にこそ広く啓蒙してくべきなのだ!時に、少し違う話ではあるが、貴様はエルフとの和平に対してはどのように考えている?」


「俺は……、よくわかりません。情報がないのでどちらがいいのかわからないので……」


 下手に反対派だと同調してしまうと、いい加減なことを言って怪しまれるかもしれない。そう白を切ると、その学生の笑顔はますますほころんだ。どちらでもないものを説得して派閥を広げようとしているのだろう。ビシッと俺の顔を指差して声を上げた。


「それではダメだ! だが事実を知ろうとする姿勢は立派だ! 私がきちんとこの国が置かれている状況をきちんと説明して差し上げよう!私の話を聞いてからどちらにつくのがいいかよく考えると良い!」


 彼女は意気揚々と言っているが、問答無用で反対派にさせるつもりだろう。これから話す中身も反対派の良いところしか言わないのは明らかだ。ここは無知のふりをしてデメリットは? とか妙な質問を投げかけないで、そうですなんですか? しゅごい! と言い続けることにしよう。俺自身もともと賢くもないので、核心を突くような質問をできるとも思えないが。


「まず、エルフたちとの戦争についてだが……」と彼女は鼻の穴を広げて人差し指を立てて雄弁に、エルフたちはなぜ戦争を仕掛けてきたのかから滔々と話し始めた。

 簡単にまとめるとエルフたちは人間から多くの物を奪っていったので、それに抗うために人間たちは昔団結したそうだ。

 彼女らの認識では、エルフたちは野蛮で醜い見た目をしているようだ。魔物を操り、人や家畜を襲い、常に豊かな連盟政府への侵攻を企んでいて、和平交渉などと言うのは少し知恵を付けたエルフたちの侵略作戦の一環で、和平ムードで緩んだところへ攻め込もうとしているのは間違いではないそうだ。


 だが、彼女はやたらと難しい言葉を使い、ポレミカルというかコントロバーシャルでとにかく気取ったようなストスリア式の話し方をしていたので、俺が理解できたのはそれくらいだけだった。(それも間違っているとは口が裂けても言えない。言えば裂かれるかもしれない)

 尤も今この場では理解することが大事なのではない。尊敬のまなざしを向けて、彼女の話にうんうんと頷きながら彼女の自尊心を立て続けるのが大事なのである。


 しかし、20分くらい話した時だ。双子に関する情報は特に得られそうになく、半ば焦り始めて相槌もいい加減になり始めた頃だ。終わりの見えない彼女の話の途中でキューディラが鳴ってしまった。

すると彼女は腰に腕を当て前かがみにのぞき込み、


「……なんだ? 学者の話を聞くときは音が入らないようにするのがストスリア……、いやどこでも常識だぞ」と眉を寄せた。

 しかし、怒り狂うことはなく、「いや、仕方ないか。貴様は学者ではないからな。大事な用事なら出ても構わないぞ」とキューディラの使用を許してくれた。


「いやいや、失礼しました。友達の子どもが迷子になってしまったので、ちょっと失礼」とキューディラに出ようとしたところ、のぞき込んでいた彼女が目の色を変えた。


「なんだと!?」


 そして、背筋を戻すと腕を組み顎に手を付けた。


「貴様はそれで馬車のことを聞いて来たのか……。友のためにそこまでできるとは感心した。なぜ最初からそれを言わなかったのだ?」


 言えるわけねぇだろ! と言うのは喉頭の奥深くで閉じ込めた。


「いや、皆さんお忙しそうだったもんで、へへへ……」


 そう言うと彼女は突然笑顔になり、肩をバシバシと叩いてきた。そして、「友学は発展の布石!友を大事にするのは我々とて同じ。ぜひ協力させてくれ。それぞれの検問所には私から尋ねよう」と物見やぐらの方へ俺を案内しようと肩を掴み引っ張った。


 肩を引っ張られるとまだ少し痛い。だが、ただの長話に付き合って終わりかと思ったが、これはありがたい。素直に頼る方がよさそうだ。


 導かれて物見やぐらの下に行くと、彼女はそこに置いてあったキューディラを使いすぐに他の検問所に連絡を取ってくれた。

 すぐさま連絡を取ってくれた彼女の話では、東と南の検問所は今朝から何人たりとも通過させていないらしい。しかし、北の検問所には革新派が多く、連絡を取ってもいい加減な情報しかくれなかったそうだ。

 ノンポリのクズどもが! とキューディラ越しに怒鳴り散らして、終わった後もぶつぶつと文句を言っていた。


 俺はお礼を言うとすぐさま、北の検問所に向かった。迷子探し中だということを理解してくれたのか、歴史の話の途中だったが特に引き留められることはなく、手を振って見送ってくれた。

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