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ウロボロスの王冠と翼 第二話

「あ、なるほど」


「確かにそうだな! よし、イズミ、お前キューディラでラジオ局作れ」


 結論に飛びついたユリナがパッと笑顔になり、身を乗り出してピッと俺を指さした。キューディラは形やシステムこそ違えど、要するに携帯電話だ。大人数で会話することも可能で、それを用いて情報の発信を行うこともやろうと思えばできる。しかし、だ。


「ちょっと待って。相手のキューディラにいきなり情報ぶち込んだらスパムもいいところだ。それって要するに、個人の電話番号にいきなりかけて相手の話も聞かずに『魔王さまは和平を望んでいます』って言うわけだろ? 怖すぎないか? 闇の教団の勧誘かよ」


「……まぁ、確かに……」とユリナはポツリとこぼした。


 シロークは腕を組んでそこから手を伸ばし、唇を弄りながらううんと呻っている。そして、少し考えた後、再び口を開いた。


「信頼性は薄いが掲示板機能はどうなんだ? 仕組みは同じなんだろう? それを使って音声でやるのはどうだ?」


「音声でレスポンスが帰ってきたら、発信者がパンクする」


「では、一方通行にしてはどうだ?送り出すだけ」


「いいかもな。でもそれで情報流すだけじゃ、どこぞの乱数放送やプロパガンダ放送と変わらないし、誰も聞かないぞ」


「ランスウ……」


 またシロークにはわからない言葉を使ってしまった。表情のない彼はほとんどと息のような、声にならない声で囁いている。


「暗号送るってこと。暗号がわかる人にしか意味のない放送だよ。要するに誰も聞かないってこと」


 いまいちつかめていない様子だが、納得してくれたようだ。「誰も聞かないのではなぁ……」と彼が独り言ちた後、一堂はまたしてもため息をこぼしてあきらめの雰囲気を醸し出した。


 なかなか簡単には進まない。何かないものかと、半ば手遊びのように手元の資料をパラパラとめくった。丁寧に印刷された文字がコマ送りのように見える。


 ユリナが皿からサンドウィッチを取り上げ、椅子に浅く座りもたれながら言った。


「なぁイズミさぁ、私ラジオって良く知らないんだよな。ガキのときにこっち来たから。お前、どんなだったか知ってっか?」


 ユリナは俺にそう尋ねるとサンドウィッチを頬張った。学生時代、高校生の時にレトロなデザインのラジオを買ってもらってからはラジオばかり聞いていた気がする。彼女が美味しそうに食べていたので、俺も一つ貰うことにした。


「ラジオばっかり聴いてたな。スクール・オブ・〇ックとか、ジェッ〇ストリームとか。電話でお悩み相談とかしたり、曲をかけたり……」


「それでいいじゃんか。お前やれ。世界も違うんだしモロパクリでいいだろ。誰も気づきゃしねぇよ。そのついでに情報ばらまけ」


「はぁ!? 無理だろ! お悩み解決できるほど人生経験豊富じゃないぞ!?」


「お前、デリカシー皆無だしな。じゃ、曲をかけて定時に情報を読み上げるとかは?」


「なくて悪かったな……。曲以外聴かなくなりそうだな」


 口に入れる前にサンドウィッチの具を覗いた。クソ、トマトが一番多い奴だ。ハムは真ん中か。


「そこはバラエティーっぽく。つかラジオ聴いてたんだろ?聴いてた通りにやりゃいいんだよ」


「いや、さっきから簡単に言ってくれるな。ただ垂れながせばいいってもんじゃ……」


 ユリナは俺の言葉を聞くと食べるのを一度止め、眉間にしわを寄せて下あごを突き出した。


「おめーさっきからイヤしか言ってねーじゃねーかよ! やる気あんのか?」


「やる気の問題じゃないって。実行できる可能性が低いんだっつーの!」


 シロークは俺とユリナのやり取りを見て、吹き出すように苦笑いをした。


「こらこら、二人とも喧嘩はよしてくれ。リナの言う通り早く実行するのは大事だが、不特定多数が聴くものとなるとなかなか大変なものになるのはわかる。イズミ君一人では厳しいと私も思う」


 そして、一息置くと話をつづけた。


「ここで私からの提案なのだが、まずは音楽を中心にかけて市民の興味を引いていくのはどうだ?」


「俺はしゃべらなくていいのか?」


 結局のところ、俺はそれが嫌なのである。嫌なことから逃げるただのわがままだとはわかっているが、放送事故まっしぐらなのだ。シロークもそれとなく俺の気持ちを理解しているのか、小さく頷いている。


「最初はな。掲示板の様子を見てある程度聴いている人間が増えたら情報を流すようにするというのはどうだ?」


「悪くないな。音声魔石の管理くらいなら何とかできるかもしれない」


「技術的な問題はどうすんだ?金ならあるがどうやる?仕組みが同じなら可能なのかもしれないけどやったことないんだろ?」


 確かに、掲示板機能の管理はブラックボックス化されており、維持のための決められたプロシージャのみが伝えられている。もとになったキューディラの仕組みも解明されていない(作った人がもういないはず)のだ。そういったところに新しい使い方を持ち込むには解析が必要になる。


「む……確かにそうだな」


 またしても会議室に沈黙が訪れた。ユリナがもう一つ食べようと手を伸ばしている。

 だが、そんな中でも俺はできるのではないだろうかとどこかで思っていた。ふと、ダリダのことを思い出したからだ。キューディラは時空系の魔法をベースにしているので占星術師に尋ねるのがいいのではないだろうか。


「キューディラのことは知り合いに占星術師がいるから聞いてみる。だが、あんま期待しないでくれ」


 オージーは怪しむように俺を見た。何かの言葉が気に障ったのだろうか。


「占星術師はいなくなったと聞いていたが……。まだあの血筋はいたのか……。もしかして、君の赤髪の恋人かね?」


「ああ、あの娘の」と言いかけたが、何かわからないほうが言わないほうがいいような、そんな気が脳裏を走りぬけておもわず視線を横に流した。そしてすぐさま「って、いやいや、恋人じゃないですよー。でも、彼女も知り合いですね」と笑いながら誤魔化した。知り合いの先にある身内だ。嘘ではない。だが、誤魔化したのが見抜かれたのか、怪しむ目が刹那鋭くなった。


「まだ君はそんなことを……。いや、何でもない。まず、技術的な物に関してはイズミ君を頼ろう」とシロークは椅子の背もたれに寄りかかり、小さく首を回しながらそう言った。どうやら見抜かれてはいなかったようだ。


「何はともあれ、掲示板機能の件は任せてくれ。協力要請ができたらまた連絡を入れる。でもキューディラでの会話は統合情報作戦局にたぶん傍受されてるから移動魔法で直接伝えに来る。俺なんかバッチリ傍受対象だろ。マゼルソン法律省長官の耳に入るはいいんだが、彼を計画に加えるのは気が進まないんでな」


「確かになぁ……」とシロークは言うと「あの人は悪い人ではないのだが、何を考えているのかイマイチはっきりしない。彼は和平派への支持ではなく、私自身への支持だと表明して投票した。警戒はした方がいいかもしれない」と鼻から息を吐きだした。


「早ぇ方がいいから、イズミ、早速行ってこい」


 そう言うとユリナは資料をトントンとまとめ始めた。


「急で済まないが、行ってきてもらえるか? ダメな時にはまた考えなければいけない」


「任せてくれ」と言って俺は椅子から立ち上がった。


 俺はついでにサンドウィッチを二個取り上げた。もし、好きな具ならうまくいく。中身は……よし!ピーナッツバターとハムだ! イケる!


 そこで会議は一度お開きとなり、俺は二つをカッと食べきると会議室を後にした。

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