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血潮伝う金床の星 第五十二話

 翌日は昼過ぎから四省長議が開かれ、俺もユリナに同行することになった。円卓の会議室には一晩ぶりのシロークがいた。押し掛ける支援者たちへの対応で屋敷に戻ることができず、疲労の色が見えて、顔も髪もテカテカになっている。だが、それでもこの間よりはだいぶ血色がいい。遠くで目が合うと、こちらを見てしおしおと微笑んだ。


 アルゼン、マゼルソン、ユリナと長官たちは揃ったが、最後の一人がなかなか現れなかった。珍しいこともあるもので一番遅く来たのはメレデント政省長官だったのだ。ユリナが来て15分ほどするとモンタンが開けたドアから大男が入ってきた。


「皆、すまない。リボン・グリーン団の子どもたちが政省に見学に来ていた。私や秘書官の部屋に来たがる子もいて見学をさせていたのだ。が、まさか裏切者のお姫様より遅いとはな」

「オイオイ、勘弁してくれよ。私は一度もあんたの前で、いや、選挙戦の間に『強硬派』って単語は使ってねぇぜ? あ、今言ったか、ははははは!」

「メレデントくん、子守りは結構だがお宅の病気がちのお坊ちゃまは今日もいないようだが?お姫のお気にはミイラになってさえ来たというのに」

「アルゼン、ギルベールは君と同じように病気なのだ。大事な選挙前に無理やり来させるのはまずかろう」

「ふん、残った候補者が、騒ぎが好きで下品な馬鹿娘の旦那と、声と図体はやたら大きい割にすぐに崩れてしまう貧弱者では先行きが怪しいな。だがなぁ、しかし、メレデント。君は選挙のあとまで、果たしてどうかな?」


 資料に目を通していたマゼルソンがメレデントに視線だけを飛ばした。


「どういうことだ。マゼルソン?」

「さてはて、誰もいないはずの君の背後の席には醜いものが見える。その薄汚い亡霊はいつから連れていたのやら」

「くどいぞ。幽霊が見えるなど気でも触れたか。結論を早く言いたまえ」

「そうか。では言わせてもらおうではないか」


 マゼルソンはテーブルの上に載せていた両手を組み、メレデントを見据えた。


「我々、法律省評議員および私自身は、この度の選挙でシローク・ギンスブルグを支持することにした。全面的にな」


 慌てふためいて椅子を倒しそうになったユリナよりも、アルゼンの後ろのシロークが声を漏らすよりも、その二人よりも早く、メレデントは立ち上がりテーブルを両手で思いきり叩いた。


「なっ!? どういうことだ!? 保守派は全員和平派支持に回るということか!? 中立的保守が行うべき監視の意味がなくなるではないか! 情に流されたのか!?」

「そういう割には騒ぎ以降、短期間のうちにだいぶうちの評議員たちを揺さぶってくれたようだな。だが君もご存じの通り、うちは帝政のころの特別情報親衛警邏(ルーアポリチェー)の出身者が多いのでな。私が鍛えた彼らは簡単に崩せるものではないのだよ。支持理由の如何が気になるかね?まぁそう慌てるな。近々君の元へ連絡がいくだろう」


 それからもメレデントとマゼルソンの言い合いは続いた。ユリナはその間、突然の支持表明に驚き、目を開いて口を開けてマゼルソンを見ていた。シロークは言いあう二人にあっけにとられて無言のままだ。そして、いつもならすぐに停めにはいるはずのアルゼンは、すました顔をして腕を組んだまま傍観しているだけだった。


 その日の四省長議は五時間ほど続いた。運悪く司会進行役がメレデントで、マゼルソンの発言と支持の撤回を求めるまで議題に移らないとボイコットをしたためだ。当然マゼルソンも撤回などありえないと応酬して平行線が続いた。それがあまりにも長引いたため、アルゼンの病気のこともあり議題は一つも進まず後日へ延期となってしまった。


 俺はあまりにも暇だったので、配られた資料を三周ほど読み返していた。終わったころには紙を見ずに議題を言えるようになっていた。銃増産完了と魔石カルテルと、題目だけ書かれていた統合情報作戦局による報告だ。何度もこみあげてくるあくびを飲み込み、それにさえくたびれて会議室を出ると外は真っ暗だった。


 ユリナとシロークがマゼルソンと話をしているのが会議室の開かれたドア越しに見える。マゼルソンは支持票目こそしたが、相変わらずの物言い方なのだろう。遠くで見ていてもわかるほどユリナの動きが大きくなっていて、それをシロークがなだめている。

 その間、街明かりがともり始めた薄暗がりの窓の外を見ていると、メレデントが会議室前のラウンジで待っていたモンタンを近くに呼び寄せていた。そして、「モンタン。予定していた西方視察の準備をしたまえ。少し長くなりそうだ」と言って、彼に鞄を渡すと連れ立って何やら足早に評議会議事堂を出て行った。選挙前に視察とは忙しい人だ。そして、俺は話を終えて戻ってきたユリナのタバコに火をつけた。


 一服済ませた後の帰りの車の中でユリナは嬉しそうに話を始めた。長議終了後のマゼルソンとの面談の際に、彼らは和平派支持ではないが、法律省評議会票15票すべてをシロークに回すことを決めたと話していた。戻ってきた票と合わせれば半分は超える。

 だが、戻ってきた票自体も確約ではないためまだ当選確実ではないのだ。しかし、それでも寝不足のシロークの顔色は以前よりもいいものになっていた。

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