アトラスたちの責務 第六十五話
それからほどなくして偽札が連盟政府内部に想定以上に出回り過ぎてしまったので、対応としてそのような措置がとられたのだ。
そのような措置は本来有り得ないのだ。自ら価値を落としたと言うことになる。
何故そのような有り得ない措置をとってしまったのかといえば、あまりにも大量に偽札を刷り過ぎたおかげで商会自身が管理できなくなっていたからだ。
そのような事態が起きていたにもかかわらず、その後も商会は取引に規制などを何ら設けなかった。
対応を取られることなく今も尚規制が設けられないでいるのは、レアのもたらしていたデタラメな情報である『ユニオン内部にかなりの量の偽札が出回っている』という順調な進捗報告に起因するのだ。
連盟政府内部で紙幣の流通量が増えてしまった為にハイパーインフレーションが起きた。
その結果、商会はデノミネーションを行った。
ユニオンでの安い取引による連盟政府内部への紙幣の流通はこれからも加速していき、事態をますます悪化させていく。
しかし、どれほど悪化しようとも、ユニオンで真札のルードが減ってしまうという事態は起こりえない。
まず、レアがベッテルハイム・ハンドラーとして、偽札を多くプールさせている前提がある。
連盟政府側から来た者たちとの取引間にレアが仲介者として入り、そこのプールされている偽札から連盟政府側から着た売り手への支払いが行われているからだ。
レアを仲介者としてさえいれば、ユニオンでは違法な取引として摘発されることはなくなる。さらにレアは、治安維持という名目のユニオンという国からの指示で動いている為に、リベートを一切取らない。よって、マルタン国境で商売をしている者はほぼ全てレアを仲介しているのだ。
売り手である連盟政府から来た者とユニオン側の買い手の間で取引は書類で行われ、その書類はレアに行き、レアが連盟政府側の売人達にプールされている偽ルードで支払いをする。
プールされている偽札が連盟政府に戻っていくだけとなるので、ユニオン側の真札は保存されるのだ。
そのユニオンによる偽札の連盟政府内部への封じ込めによって、昨今の偽札による犯罪の摘発が減ったのだ。
だが、これほどまでにユニオン側に有利な状態が自然に形成されるとは考えづらい。
明らかに何者かの手が入り、最初の一手よりも先にコントロールされていたのは明白だ。
レアもその全てに関与していて、全てを知っている。
だが、その全てを導いたのはレアではない。より根源的で最初の一滴である存在、私の父上、ヴィトー金融協会の頭取ロジェ・ヴィトーだ。




