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アトラスたちの責務 第六十三話

「私は何もしていません。連盟政府の安い物を売る者たちに、ユニオンおいて、脱法ではあるが非合法では確実に無い活動の場を提供し、揉め事や騒動が起きないようにそれを正常な方向へと誘導し、そして、悪質ではない形での取引を活性化させただけです。もちろん、ルカス大統領やヴィトー金融協会のロジェ頭取といったこの国の中枢たちの許諾を得てです。この土地では何一つ悪いことはしていません。何か疚しいことがあるとすれば、協会とユニオンの情報を彼らに渡していたことでしょうか。それも全くのデタラメで、協会やユニオンに対してというよりも、連盟政府や古巣である商会に対して憐れみにも似た疚しさでしょうね」


連盟政府の内部の安い物を、敵国であるユニオンの国境沿いで、暗黙の了解を得た状態で文句を言われずに売る。

しかし、そのように都合良く行くものだろうか。取引は買う側だけの世界ではない。売り手と買い手の間には、売り手はより高く、買い手はより安くという、互いに少なくとも自分達だけは得をしようという一つの原理に基づいていながら必ず相反する思考が存在するのだ。

ユニオンとの取引は非公式なものだ。

非公式であるならば、商会はリスクマネジメントと言う防波堤を作る。いくらレアを信用したからと言って全てを彼女に任せてしまうようなことはせず、それを取り締まらないはずが無い。


「ルード通貨単位の切り下げは連盟政府と商会が判断して、彼ら自身の手で自ら行ったもの。それで起こる様々な事態が連盟政府の内部に限られていればどうでもいいかもしれません。しかし、国が増え、国の際が増えた今、周りに影響を及ぼすのは必至。私たちは影響を受ける側として、それに適切に対応を取っただけです」


レアは当たり前のことを言った。レアと協会を含めたユニオン側は自らの利益を守る為に当然のことをしたまでなのだ。


しかし、私はレアのその言葉に何か違和感を覚え、眉間と眼瞼がひくついているのが自分でも分かった。何かの記憶を呼び起こそうと必死になっていたのだ。


何が引っかかるのか。それは最初に放った「単位の切り下げ」と言う言葉だ。

これまで、誰かがどこかでそれと全く同じことを言っていたのだ。

もちろん、街中で金融について議論が交わされていれば、ラド・デル・マルの金融協会本社ビル、カルデロン・デ・コメルティオの本社ビルやユニオンの金融機関が軒を連ねるこの金融街に並ぶカフェでもレストランでも、経済界の者たちが集まりそうなところに行けば、意識せずとも聞こえていたかもしれない。


しかし、その言葉が使われるのは専ら連盟政府内部について話される場面の中だけであり、ユニオンでは全く議論されることは無いのだ。

話される場所があるとすれば、たった一つだけ存在する。金融の話であるので、この国の中でどこよりも金が集まるある場所だけだ。


その瞬間、記憶の海の中で錆びていたある言葉に手が届き、握りしめてすくい上げた。


「……では、こちらからの提案は、そうですね。今簡単に申し上げるなら、『単位の切り下げ』など……」


それはかなり前、シスター・マンディアルグと再会したときだ。書類を運んで来たときドア越しに偶然聞こえてしまった言葉だ。


あのとき、ヴィトー金融協会の本部を訪れていたのは教導総攬院(ドゥチェンス)の使者たちだ。教導総攬院は今連盟政府のありとあらゆるものを支配している。


思い出せば出すほどに頭の中の回路は血よりも素早く巡り、そして全てが繋がった。


連盟政府と商会にデノミネーションをさせたのは――。



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