表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1844/1860

アトラスたちの責務 第五十二話

かつては商会と協会は近しい立場にいた。三機関という形で人間世界を支配していた。しかし、それは連盟政府の内部での頃の話だ。

今やユニオンで新時代の覇者たろうとしている協会からすれば、偽札をばら撒いた挙げ句、収拾が付かなくなってその偽札すら連盟政府内部限定で真札にするという愚行中の愚行を働いた商会など、その名を呼ぶに値すらしないと思っているのだろう。


犬の濡れた鼻先のようなふざけた雰囲気は既に消え去っていた。しかし、このままではまずい。私は「では、ロジェ頭取、まずは私から商会のお話しをお伺い致します」と父上の気をラビノビッツから引き剥がしてこちらに向けた。


「カミーユ、そうだな」と父上の表情は途端に柔らかくなった。

そして、「だが、気を遣わなくて良い。私が直接話を聞こうではないか。君にはレア・ベッテルハイムの迎えまで頼み、わざわざマルタンまで赴いてくれたのだからな」と微笑みかけてきた。


「かしこまりました。差し出がましいことをしました」


父上は「よく出来た娘だ。おっと、仕事中だったな」と軽く笑った。大きく咳払いをすると、ラビノビッツの方へ顔を向けた。


「君は何かね? トバイアス・ザカライア商会の……何かね?」


ラビノビッツは和んだ雰囲気に胸をなで下ろした。

そして、これ見よがしの作り笑顔を思い切り浮かべると、左手を大きく掲げ、右手を胸の前にかざして跪いた。

意外にもあっさり膝を床を突いてくれた。些か大げさで芝居がかかっているが、最初からそうしてくれた方が私も安心だ。


「わたくしめは、トバイアス・ザカライア商会、商会会計部門(イーシュ・ケリヨート)所属のラビノビッツと申します」


父上は名前を聞くと眉を上げた。そして、「ほう」と口を尖らせた。


「なるほど、そう言う名か。しかし、その名、どこかで聞いたな」と顎に手を突き、考えるような仕草を見せた。すぐに右手で左掌を軽く叩いて口を丸くした。


「ああ、そうだ」と言うとレアの方へ振り向き、「レア・ベッテルハイム。君がサント・プラントンの勾留施設から逃げるときに殺害した者も、そう言う名ではなかったか?」


レアが頭を下げて一歩前に出た。そして、何か言おうと口をわずかに開けた瞬間、ラビノビッツは割り込み「それは双子の兄でございます」とレアの方へ笑顔を向けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ