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アトラスたちの責務 第五十一話

ヴィトー金融協会頭取とトバイアス・ザカライア商会の使者の面会は、昼過ぎに行われる。

私とレアがラド・デル・マルの金融協会本社ビルの頭取の執務室に訪れた頃には、ポータルを開く予定時間が近づいていた。


ポータルを開くとき、念のためにと執務室の外に民間の軍事会社に依頼して部隊を配置した。


しかし、予定時間の五分前になると商会側から「使者のペットの犬を同行させて欲しい。飼い主がいないとさみしがって暴れてしまうので」と急遽連絡が入った。

レアによると「犬の帰巣本能を利用して移動魔法の経路を作るつもり」らしいので断ろうとした。だが、キューディラの向こうで犬がくぅんくぅん鳴いて主人に甘えて暴れている音が聞こえて、そのドサクサの勢いでその話をしなくなりポータルを開く時間になってしまった。

時間通りでないと、父上が機嫌を損ねてしまう。

しかし、レアに焦りは一切見られず、ポータルを予定通りに開いた。

犬が飛び込んできたとしても、外で控えている部隊が処理するだろうと余裕だった――のではなかった。ポータルを迎え入れる為のドアのように親切に開くのではなく、使者一人分が落ちてくるような落とし穴のように開いたのだ。

天井にぽっかり空いた穴から人が一人落ちてくると同時にポータルは閉じられ、ペットだと言い張った犬は濡れた鼻先が一瞬ちらついただけでこちらに飛び込んでくることはなかった。


レアはそれに苦笑いを浮かべていた。このように商会は、隙あらば、という感じなのだ。

これから何が起きるだろうか。私はそのふざけたような雰囲気の中で一人緊張していた。


落ちてきた使者は尻餅をつくと、驚いた顔で左右を見回した。

そして、自分の置かれた現状に気がつくと慌てて立ち上がって笑顔を浮かべ、握手せんと右手を差し出してのしのしと頭取の座る執務机の方へ近づいて行こうとした。


「これはこれは初めまして、ヴィトー金融協会頭取ロジェ・ヴィトーさん。私はトバイアス・ザカライア商会の商会会計部門(イーシュ・ケリヨート)所属のラビノビッツと申します」


だが、父上は立ち上がることはなく、差し出された握手を返すこともなかった。父上は、一方的に名乗り右手を差し出して向かってくるなど無礼だと言わんばかりに無言を貫き、瞬き一つせず使者の男を睨みつけた。ラビノビッツと名乗った男は立ち止まったまま動くことが出来なくなり、執務机にすら近づくことが出来なかったのだ。


父上は連盟政府の貴族階級にこだわりがある。ヴィトー家を貴族階級のさらに上の存在であると認識しており、上級貴族さえも下に見ている。中級貴族以上でなければ、その名前すら呼ぼうとしない。

ユニオンに貴族階級は無いが、ブルジョワジーでもかなりの資産を持っていなければ無視するほどだ。


まず跪け、自らのつま先を見よ、勝手に話を始めるな、勝手に名乗るな。

父上の視線はそう訴えている。


だが、商会は引き下がろうとしない。自分達こそがこの世界を動かしてきた存在であると言う自負があるからだ。跪くこともしないはずだ。



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