アトラスたちの責務 第四十八話
「マルタンの国境のさらに際だというのに、どうしてこんなに盛況なのですかね?」
「市場が活性化しているんですよ。連盟政府側から売りに来る者がたくさんいるんです。それをコントロールしてるのが私なんですよ」
「ルカス大統領はもちろん知っているんですよね?」
「当たり前ですよ。非正規な市場だけど、そういうところにこそ制御は必要だって、私に一任してくれています。違法取引について直接管理しろという書類は作れないので、治安維持活動に従事してくれと言う形でバリバリやってますよ!」
レアは顎を上げて自信ありげに笑った。だが、鼻から息を吐き出し、「と偉そうなことを言いますが、実際してるのは治安維持と売人同士の喧嘩が起きないかどうかの采配くらいで、商売はむしろどんどこ促進してるくらいですね」と肩を落とした。
「具体的なルールと言えば、店舗での直接での金銭を用いた取引は禁止していて、店舗では書類でのやりとりをして、売人達がそれを私のところに持って来て、そこで私からお金を渡すような形にしています。彼らにとっては少々手間ですがそれは徹底していますね」
「そうなのですか。リベートなどとっているのですか? タダ働きなんてしたくないでしょう?」
「そんなわけないですよ」と困ったように笑った。
「ボランティアですよ、ボ・ラ・ン・ティ・ア! 私たちベッテルハイム・ハンドラーはまだまだ小規模です。実績を固めるまでユニオンの後ろ盾が必要なので、ボランティアに決まっています! 大きく成長していく為に必要な信頼を得て、認めて貰う為に、張り切っちゃってますよ!」
レアは気合いを入れるように両手拳を振り上げて鼻の穴を膨らませた。
「敏腕商人のレアが動けば商売は活性化しますからね。でも、商売が活性化していればルール外の取引も必然的に増えるはずです。その割りに、最近こちらでの偽札の摘発が目に見えて少なくなったような気がするのです。何かご存じですか?」
例の指令を考えればとても不思議なことだが、これは事実なのだ。
先日から数回ほど、紙幣の真贋を見極める術を身につける講習を協会が主導して、軍や憲兵、商売人に対して大規模に行った。
今後新通貨が発行されルード通貨は過去のものになるので、金をかけてそういった講習を行うのは無駄かと思われたが、そうであるからこそすべきと毎回盛況だった。
確かに、それにより掴まされる機会が減ったのも考えられる。




