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アトラスたちの責務 第四十七話

マルタンのはずれ、ユニオンと連盟政府の国境のゲートは固く閉じられている。

ここはマルタン戦線の一部でもある。戦線が停滞している間に、ユニオンは頑強な国境壁を作り上げていた。


いくらこの場所が穏やかであっても、殺し合い憎み合いいがみ合う戦線の延長線上に位置しているが、私にとっては懐かしい光景だ。私がシスター・マンディアルグと共に抜けた壁の穴はもう少し北側の茂みの中だ。

あのときはまだ早雪開けであり、暑ささえ恋しい時期で日に当たることがうれしく思えるほど清々しい初夏だった。サント・プラントンからここに至るまでに強い雨に打たれ、日に当たればそれも乾く。その乾きさえも爽快に感じたほどだった。

マルタン事変の前後で暑さに身体は慣れ、やがて飽き始め、贅沢にも早雪明けほどの涼しさを求め始めていた。


空を見上げれば、もうだいぶ高い。雲の流れも速く、陽射しに焦げたのは私だけはなく、まだ緑の木々も草もどこか黄色みを帯び始めているような気がした。


しかし、こうしている間にもシスター・マンディアルグとディアーヌちゃんの身は危険にさらされているのだ。季節がいたずらに進むことに恐怖さえ感じる。



私がこうしてマルタンの国境の手前まで来たのは、レアとの待ち合わせがあるからだ。

レアはユニオンと連盟政府を往き来していて、目下敵対している両国の間で密かに取引を行っている。言うまでも無く危険な仕事だが、彼女には自身を守る術がある。軍紀から逸脱するような兵士や治安の悪さにかこつけた賊程度では相手にならない。


しかし、敵対的な両国の最前線の一部でもあるはずここは、賊や逸脱兵など近寄りがたいほどに活気に満ちあふれているのだ。

壁沿いにいくつもの掘っ立て小屋がずらりと並び、その全てが店のように営業している。軒を連ねる中には商売慣れしていない、おそらく本業は商売人ではない者まで混じっている。

並んでいる店はどこも活況で、ユニオン兵士の姿や近隣の住民、中には大量に買い付けるために大型車で乗り付けている業者と思しき者もいる。


マルタン事変に密入国したときはこの辺りはどこも殺気に満ちていたが、それ以降に以前仕事で訪れたとき変化が訪れていたのは見ていた。しかし、ここまでの賑わいは見せていなかった。

その活況ぶりはどこか急いでいるような雰囲気がありどこか不自然な気がした。


私が置かれている立場のせいでそう思っているだけだろうか、辺りを怪訝に見回していた。その猜疑心を振り払うような「カミュ!」と元気のいい声が背後から聞こえたので、振り返るとレアが来ていたのだ。


「よく来ましたね。国境越えるのも簡単ではないでしょう」


「私はそうでもないですよ。ルカス大統領とトバイアス・ザカライア商会のお墨付きですから」


「それも簡単なことではありませんよ。私どころか、父上すら許可が出ないというのに」


レアは眉を寄せて笑った。


「いやいや、ヴィトー金融協会の者はもう連盟政府になんか入りたいと思わないでしょう。お迎えありがとうございます。早速本社ビルまで向かいましょう」


「この辺りは軍用車以外は立ち入れないのですよ。少し離れたところに車を待たせてあります。歩きましょう」



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