アトラスたちの責務 第四十六話
ディアーヌちゃんの情報を集めなければいけない。シスター・マンディアルグを帰したのは早過ぎた。彼女の身も危ない。
しかし、連盟政府の経済も非常にまずい方向へ向かっている。
私に面会の予定はない。だが、娘という立場を利用して父上の執務室へ乗り込んだ。
運良く父上は休憩を取っていたので、私は父上に迫った。
「父上、非常にまずいことになっております」
「どうした? ここは金融協会本社ビルだぞ。父上と呼んで訂正しないなど、珍しく焦っているな」
「商会はグルヴェイグ指令で発行された偽札を、真札として認めたようです」
「ほう」
「その結果、偽札が連盟政府の内部で多く流通して紙幣が爆発的に増えたので、デノミを行おうとしています」
「そうか」
何を言っても父上の返事は短く、ほとんど無いに等しいものだった。
「寄付をこちらで、ユニオンで管理している以上、連盟政府の内部に限定されているデノミの影響を受けず価値が変わることはありません。ワタベやシバサキを始めとした者たちは黙り込み、懐を暖めようとしているのです。
今朝会ったシスター・マンディアルグはそれを伝えに来たのです。彼女だけです。あの珍妙な一段の中でたった一人です。デノミが行われたことを私たち協会に伝えようとしているのは彼女の良心だけによるもので、彼女はそれがいかに危険な行動であるかというのことを分かっていないようでした。今非常に危険な状態です」
「そうか。確かに危険だな」
それでも態度が変わることがなく、私はかっとなってしまった。
「父上! 何故そのように無反応なのですか!? これから連盟政府は孤立を深めていきます。それが如何に危険な状態を招くか!」
と怒鳴るように尋ねてしまった。
父上は相変わらずだった。だが私の目を真っ直ぐ見つめると「カミーユ」となだめるように名前を呼び、「何もするな。まだだ」とゆっくりとした声色でそう言った。そして、「いいな?」と念を押してきた。
私は何をさせられるというのだ。なぜ焦っていることなど知っているかのように振る舞うのだ。
その全てを見透かしたか、それとも、全て予定通りであるような物言いに何も言い返せなくなってしまった。
完全に父上のペースに飲み込まれてしまったのだ。
「落ち着いたかね。カミーユ、実は私も丁度君を呼ぼうと思っていたところだ。早速君仕事があるのでな。もちろん行員としての仕事だ。明日、レア・ベッテルハイムをマルタンまで迎えに行ってくれ。大事な話合いがあり、彼女にもぜひ参加してもらいたいのでな」
「何をするのですか?」
様々なことを押し込められてしまい、歯を食いしばると奥歯が鳴り、眼瞼が震えてしまうのが自分でも分かる。
それを押し殺して尋ね返した。
「話合いだ。商会、トバイアス・ザカライア商会とな。ベッテルハイム・ハンドラーと三者での話合いだ」




