アトラスたちの責務 第三十九話
「それは私の父、ロジェ・ヴィトー金融協会頭取には伝えたのですか?」
「まだです。本日はそれについてお話ししておこうと思いまして、お伺いしたのです。実は今日ここに私が来ることは他の幹部たちには報告していません。金融協会への報告についてはどうするかと私が尋ねた際に『必要ない』と一蹴されてしまいまして」
仕方なさそうな笑顔になったが下を向いてしまった。おそらく「必要ない」程度ではなく、もっと乱暴な言葉をかけられたに違いない。
「ユニオン政府は知っているのですか?」
「おそらく情報は入っていると思います。ですが、切り下げはあくまで連盟政府の内部に限ったことですので、関係はないかと思いますが」
確かにユニオンに関係はない。だが、国を超えて金銭を管理している状態となっている私たちヴィトー金融協会には大いに関係がある。
連盟政府の内部では百ルードが一ルードだが、ユニオンでは百ルードが百ルードのままなのだ。
連盟政府内部で百ルードだったものが一ルードで買えることになる。こちら――ユニオン内で管理している預金を引き出して連盟政府の内部で使えば、手持ちが百倍になったということなのだ。
シスター・マンディアルグを除いた幹部たちは、百倍の資産を突然手にしたことを黙っていようとしているのだ。
「シスター・マンディアルグ。あなた、今すぐ帰りなさい」
そう言うとシスター・マンディアルグは、え、と息を漏らして困ったような顔になった。
「まだお話しは済んでいません」
「いいえ、話はよく分かりました。まずはあなたとディアーヌちゃんの身を案じての判断です。全ては私から父上に直接お伝え致します。帰りは移動魔法でサント・プラントンの外までお送り致します。戻ったら真っ直ぐ自宅に向かってください。いいですね? 寄り道をせずに。あなたが今日ここに来て私に会ったことこと、ユニオンに入国したことは誰にも言わないでください。あなたは今日一日家にいました。いいですね?」




