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アトラスたちの責務 第三十八話

シスター・マンディアルグは「ええ」と頷き、「先日、サント・プラントン近くのワインセラーから葡萄酒を買いまして、そのときのおつりです」とバッグから財布を取り出し、紙幣を見せてきた。


おつり、ということは公然と取引をされているということだ。ワインセラーを含めた酒造業は全て商会の管理下であり、それ以外で作られたり売られたりする酒類、ワインだろうがエールだろうが全てドブロクと呼ぶことしか許されていない。国教のシスターともあろう者がそのようなところで買うとは考えられない。シスター・マンディアルグは性格上、正規品しか買おうとしないはずだ。


「失礼致します」と人差し指と親指で摘まんだ。

紙質は新しく、角も折れていない。ピン札ではないが比較的新しい。新札らしく、魔鉱刻印(マギタイトスタンプ)の掠れも見られない。


レアに一度グルヴェイグ指令で作られる紙幣を見せてもらったことがある。手触りからインクの臭い、魔鉱刻印(マギタイトスタンプ)の光の反射まで真札に遜色ないものだった。銀行員として紙幣を触り続けてきた私でさえ、辛うじて魔鉱刻印(マギタイトスタンプ)の反射具合が僅かに異なるのが分かるかどうかだった。

レアは具体的に言わなかったが、おそらくそれこそがトバイアス・ザカライア商会だけが偽札を見抜く為の隠し模様に違いないのだ。


窓辺に行き、紙幣を掲げて差し込む朝日を当て、横にしてゆっくりと傾けた。


偽札であるなら、虹色に光る魔鉱刻印(マギタイトスタンプ)がほんの僅か一瞬虹色が乱れるのだ。

まさかと思い、ゆっくりと探るように傾けていったある瞬間、魔鉱刻印(マギタイトスタンプ)の虹色は崩れ、すぐに元に戻っていった。


これはグルヴェイグ指令で発行された偽札だ。


「これはトバイアス・ザカライア商会の直営の店でも使用できますか?」


「以前は綺麗なお札が弾かれて古い方が良いと言われることがあって不思議に思っていたのですが、最近は弾かれることはありませんでしたね。どの紙幣でも問題なく使えます。たった今あなたがなさったように、光にかざして傾けていらっしゃる商人の方をときどき見かけます」


やはり、商会は見抜く方法を付けていたのだ。だが、それが分かっていながら、何故使えるようにしたのだろうか。


そして、シスター・マンディアルグの話では、デノミネーションを行うと言うことだ。だが、何故このタイミングで行ったというのだ。


偽札の発行……。紙幣が増えた……。商会が偽札を見逃す……。

口の中に苦みが収まると、今度は脇腹が冷たくなった。


まさか! なぜそのような無茶なことを!

タイミングなど見計らったのではない! せざる得なくなったのだ!



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