アトラスたちの責務 第三十六話
始業時間から一時間ほど経過した頃、通りには面していない一階の裏口に一台の車が止まった。ユニオンモートルグレークラスでは比較的高級車のルコガスタだ。
それから十分ほどすると、三階にある一般個室応接室の受付から連絡が入った。どうやらシスター・マンディアルグが到着したようだ。
重要案件と聞いていたが、どのようなことで来店したのか私は聞いていなかった。
困ってはいたがあまり待たせるわけにもいかないので、渡されていた会計などの資料を抱えて三階の一般個室応接へと向かった。
指示されたドアをノックして開けると、シスター・マンディアルグが革のソファの前で立ってで迎えてくれた。
「おはようございます、カミーユさん」
「おはようございます、シスター・マンディアルグ。早速ですが、本日はどのようなご用件でしょうか?」
要件が緊急だと知りながら内容を全く知らないのでいきなり本題に切り込んでしまった。
シスター・マンディアルグは驚いた顔になった。
「ああ、失礼しました。いきなり本題に飛びつくのは無礼というものですね。こちらも今朝急遽会うように言われて、詳しいことを聞かされていないので焦ってしまって」
「いえいえ、構いませんよ。私たちも混乱しているので、お互い様です」
「さて」といってソファに腰掛けた。「何か困りごとですか?」
尋ねるとシスター・マンディアルグも向かいに静々と腰掛けた。
「困ってはいないのです。喜ばしいと言えば、そうなのです。ですが、協会様とはどうしてもお伝えしておかなければいけないと思いまして」
「それは良かった。何かあったのですか?」
「先日の教導総攬院と十三采領弁務官理事会の決定についてです」
どうやら連盟政府内部の政策決定の話のようだ。ここに来たということはおそらく金融関係で何か変更があったのだろう。困りごとかどうかではなく、真剣に聞かなければいけない。影響が出るのはこの人達だけではなくなる可能性があるからだ。
私は黙ってシスター・マンディアルグを見つめて、言葉を促した。
「連盟政府内部におけるルード通貨の単位の切り下げを決定し、近日中に行われることになりました」




