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アトラスたちの責務 第三十五話

「と、惚けるのは止めておこう。もちろん、中身を知らないわけではない。だが、私がいつあれを融資だと呼んだかね? ミラモンテスもラド・デル・マルの本店営業部窓口に訪れて正規の段取りを踏んでの融資依頼はしていないではないか。金額も私たちにとって大した額ではないが、世間ではそれはそれは大金と言われている。私を通さずに融資をしようものなら、娘であっても今度こそクビだな。

しかし、融資というには返済がスピーディーだと思わないか。利息が付くよりも先に返ってくるではないか。銀行家である以上、利息は無視できない。保険屋が被保険者の健康を気遣うようにな。その私が無視しているのだ。私はあれを融資だとは思ったことはない」


「ですが」と言いかけたが、それ以上は何も聞くなと父上は睨みつけてきた。

いくらコマースギルド代表のミラモンテス氏であっても、そしていくら返済が早くとも、あのような額を立て続けに貸し付けるはずがない。

返済が数日以内に確実に行われることを銀行側が知ってでもいなければ不可能なはずだ。

必ずしも何か裏があるのは間違いない。


調べるべきだろうか。調べるべきではないのだろうか。

だが、調べると言っても何をだ? 調べれば調べるほどに、父親のしていることを否定しかねない。

私が調べるといえば、私が父親に近いという立場上、協力する者は出てくる。その者たちが何を得ようとして私に恩を売るのか。それによってかえって闇を黒く塗りつぶすかもしれない。


「気になるかね?」


黙り込んで視線が落ちていることに父上に指摘されて気がついた。慌てて視線を挙げた。


「私は以前、覇権について伝えたな。それはその途上にある出来事の一つに過ぎないのだ。気にするなといいたいところだが、それにばかり気を取られていては先に進めない。答えをやろう。我々ヴィトー金融協会は長年大口の顧客であり、信頼の置けるミラモンテス氏のビジネスに手助けをしているだけだ」


不服ながらも「かしこまりました」とすぐに口から了承の言葉が出た。


父上の言葉に嘘偽りが無いのは分かる。だが、大きくまとめたことしか言っていないというのも感じる。

私にはそう言う以外に出来ることは無い。


父上は大きく頷き「さて本題に戻ろうか」と咳払いをした。


「この間の、なんと言ったか、あの白と黒のローブにトゥニカを被っているぞろりとした格好の女。連盟政府の宗教団体の代表で来ていたあの……」


「シスター・マンディアルグですか?」


「そう」と言うと右手の人差し指を立てて振るような仕草を見せた。


「それだ。その女が本日またこの本社まで来る予定になっている。今回は重要案件で臨時の来店だ。しかし、彼女は上客とはいえ、あちらでは貴族ではない。私が何度もわざわざ会う必要なかろう。君が会うことも贅沢で必要など無いとは思うが、知り合いのようだな。話だけでも聞いてやるといい。貴族ではないとは言え大口顧客だからな。無下に追い払うことも出来ない。君なら相手も不満に思うことも無かろう」



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