アトラスたちの責務 第三十四話
今日もいつも通りに、昨夜の指示を受けた通りに一千万が入った三つのアタッシュケースをレギナに渡し、乱暴な車の背中を見送った。だがその後に、父上に呼び出されたのだ。
談合の件は市長暗殺や市長選候補の問題など情勢に圧されてうやむやになりつつあった。そこへ来てさらに前市長と方針は変わらない副市長が市長に当選したことにより、選挙が談合による一連の流れによって生じたことよりも、前市長への弔いとしての体を帯び始めていた。今ではすっかりミラモンテス氏は許されたような風がながれて再び幅を利かせ始めている。
しかし、融資は多額かつ高頻度な傾向にあり、その件についていよいよ何か言われるのかと思った。
「お呼びでしょうか」
「おはよう、カミーユ。今日も問題なく渡したかね?」
父上が、問題なく、というのは、実はこれまでに問題があったからだ。
一度、私がいないときに代理の行員が直接メイドの口座に振り込んでしまったことがあった。指示がきちんと伝わっていなかったのが原因だ。それに父上は激怒したことがある。
巨額の振り込みが融資として一メイドに振り込まれたことはどこから漏れたのか、早速メディアが取材に来た。しかし、そのときには既に「振込口座の間違い」ということでコマースギルドが共同で行っている事業への融資という形にして誤魔化し事なきを得た。
それ以降は私以外には触らせないと言うことで、その件は幕を閉じた。問題は行員のケアレスミスとして処理されたが、父上は何故あそこまで激怒したのか。ミスはミスであることに変わりは無いが、私は疑問に思うこともあった。
「問題ありません」と言うと父上はニッコリと笑顔になった。
私はその後に何かを言う前に「ですが、よろしいのですか?」と尋ねた。
「何がかね?」
「短期間に多額の融資を繰り返すのはどうなのですか?」
「融資? 誰かに多額の融資をしたのかね?」
「ミラモンテス氏のメイド秘書のレギナに渡しているあれです」
「ただのアタッシュケースではないか。何か違うとすれば、特注のブルゼニウム製でミラモンテス氏以外開けられないことぐらいではないか」
父上ははっはっはと笑った。私が無表情のままでいると、咳払いをした。




