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アトラスたちの責務 第三十話

何故そのように冷静でいられるのか、と尋ねずにはいられなかったが、私は尋ねることを躊躇した。何も聞くなという、目には見えない圧を感じていたからだ。

仮に聞いたところで「対応済みだ」と返ってくるのも目に見えていた。シローク長官が言っていた以上に、父上は何十手も先を読んでいるからだ。


それがどうしようもなく怖くなったのだ。


父上が恐ろしいのではなく、読んだ先でこれから何が起こるのか、それがどうしても恐ろしいのだ。

私はロジェ・ヴィトーと後妻ミシュリーヌの間に出来た確かな血を受け継いだ子どもであり、見た目は父に中身は母によく似ていると言われる。

父上には愛人もいる。だが、そこには愛や欲というような俗物的なものを見いだせなかった。なにか、愛人たちとの繋がりは事務的かつ簡素で自らの威厳の飾り物でしかないように見えるのだ。

前妻が問題のない長男を産み順調に育ち、七光りなどと言わせることもないほどに優秀で、協会の跡取りと目されている。

母上には申し訳がないが、私が仮に愛人の子だとしても、父上はロジェであることに間違いはないはずだ。(普通、そこで抱えたかもしれない懊悩の中で父と母の立場は逆であるべきだが)。

前妻も後妻も皆十代半ば前でロジェに嫁いだ。私の趣味嗜好を考えれば、それも血のつながりと言えよう。


もし、私が父上からその世間では犯罪者のような扱いを受ける嗜好だけでなく、先を読む力を一部でも受け継いでいたとしよう。


無意識のそれは、首筋のこわばりという感覚以外にはっきりとした形で捉えることは出来ないが、恐ろしい未来を予感させてくるのだ。


父上と母上の混じりっけのない子どもであることに感謝しつつも、私にその父上の特異な力が受け継がれていないことを強く願ってしまった。その恐るべき未来がただの私の不安による思い込みの産物でしかないと願ってしまったのだ。



私が紛れもなくロジェ・ヴィトーの血を受け継いでいると、その身をもってはっきりと悟るのはまだ先だ。

この後の出来事から導かれたわけではなく、私が予感したそのときには既に世界は大戦に向かっていたのだ。



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