アトラスたちの責務 第二十八話
「商人が金融を握ったのは、連盟政府にとって大きな過ちだったな。彼らは自らの権力を過信して過去のやり方がそのまま通じると思っている。ミクロに物は扱えていても、マクロな物は彼らには到底扱えない。一方のヴィトー金融協会、君たちはその逆であり、自分が最も美しく舞える舞台を変えることができたのだ。
だが、危ないのは君たちも同じだ。ケリを付けるなら、ユニオンの新通貨発行前だ。発行されては新通貨が連盟政府に大量に流れ込んで価値が中和される。ルードと何ら変わらないものになってしまうな」
シローク長官は私の膝の上を見ると「落ち着きが無いな」と言った。
私は気がつけば、苛ついたように指先で膝を小刻みに叩いていたのだ。
慌てて指を止めて「申し訳ございません。今の話をできるだけ早くに頭取に報告がしたいので」と姿勢を正した。
失礼なことをして、しかも早く戻りたいというような失礼なことまで言ってしまったが、シローク長官は苛ついた様子も咎める様子も無かった。
「その様子ではあまり具体的な話は出来ないな。もとより、今日は顔合わせ程度だ。ユリナは友人に会えてうれしいのか、久しぶりに食事に誘いたいそうだ。だが、その様子では取りやめと伝えておこう。やれやれ、また癇癪を起こされてしまいそうだ」とシローク長官は初対面の時のような困ったような笑顔で後頭部を掻いた。
「お手数おかけします。ですが、例の不明武器の調査報告書を受け取りに軍部省に一度向かうので、ユリナ……軍部省長官には帰り際に私から伝えておきます」
「そういえば、君はグルヴェイグ指令のターゲットがヴィトー金融協会であることはレア・ベッテルハイムからは聞いていないのだな」
「そういうことになりますね」
「おそらく尋ねない方が得策だろう。彼女にもそれなりに思惑があるのだ。私も彼女には近々会うことになるだろう」




