アトラスたちの責務 第二十七話
考えてもいなかったことを言われて「何ですって?」と思わず噴き出すように笑みがこぼれてしまった。
「あまりにも利己的で周囲、つまり国際金融が見えていない。これはどう見ても協会がターゲットだと思うのだが?」
「ごめんなさい。話が見えないのですが?」
私は繰り返し尋ねてしまった。だが、シローク氏はいいだろうと小刻みに頷くと説明を始めた。
「グルヴェイグ指令というのは商会の中には古くから考えられてきたそうだな。では、その“古く”とはいつだろうか? 我々エルフを魔物と同一視し粗野で非文明的な普遍の敵と見なし、人間が一つにまとまっていた旧時代のことだろう。当時そちらでは最強のルードと弱小のエインしかなかった時代の話だ。だが、今はルード、エインだけではない。同一でありながらより価値を持つユニオンルード、通貨としての役目を閉じようとしているエイン、粗野で非文明的な我々エルフたちの通貨で世界で最も価値を持つエケル、さらにユニオンによる新通貨だ。
君の父上は複数の通貨が流通し始めることに、ユニオンが独立した時点で気がついていただろう。いや、二手も三手も、それ以上を読む人だ。ユニオンの独立にさえも気がついていたかもしれない。
どの時点からとは分からないが、レア・ベッテルハイムがグルヴェイグ指令について知らせるよりも以前に、商会による金融を用いた攻撃のターゲットが自分たちとなることには薄々と勘づいていただろう。だから、ユニオンに逃げ込み、新通貨発行事業に積極的になったのだ。流れるように上手くやったものだな。共和国の金融崩壊を狙った作戦失敗による左遷という形で、尚且つ左遷先はユニオンであるとして連盟政府の顔を伺い、現場にいた君を新通貨発行事業でユニオンに送り込む。君は失敗を繰り返したが、失敗が目立つものだっただけでその実は非常に優秀だ。地道な結果を出し続け下地をすぐに作ると見込んでいた。そこへマルタンでの混乱に乗じて、全ての事業を滑らかに滑り込ませるというのは実に無駄がなく鮮やかだ」
何も言えなくなってしまった。だが、シローク長官は私のことなど構うことなく、止まらなかった。




