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アトラスたちの責務 第二十四話

「連盟政府の紙幣には魔鉱刻印(マギタイトスタンプ)というものがされてあります。基本の炎熱系、雷鳴系、氷雪系、三種の魔石を砕き、その他に稀少な鉱石粉末と共に一定の割合で混ぜ合わせ紙幣に押しつける技術です。配合割合を知る人は協会でも商会でも五本の指にも満たないでしょう」


「だが、その信頼が今揺らいでいると。聞いたぞ。“グルヴェイグ指令”」


シローク氏はそう言いながら紅茶を一口含んだ。


「やはり、ご存じでしたか」


シローク氏からその単語が出たことへの驚きはないが、思った以上に出番が早かった。


「シローク・ギンスブルグとして妻から聞かせてもらった」とカップを置いた。


「では、既にご存じかとは思いますが、その指令の目的は商会により刷られた偽札を対外取引で大量に使用することによりルードの対外的信用を下げることです。対外ということで共和国という他国と取引を積極的に行っているユニオンへのピンポイントダメージを狙った作戦です」


「それに我が国の造幣機械が使われたということか」とシローク氏は顎をさすると話を続けた。


「我が国の造幣機械で印刷できる程度のものだったと証明されたわけだ。それとも、我が国の技術が素晴らしいのか」


「恐れながら言わせていただきますが、造幣機械だけでは作れません。確かに印刷効率は上がるかもしれませんが、魔鉱刻印(マギタイトスタンプ)は協会独自の物であり、それがなければ連盟政府では紙幣ではなく、ただの紙切れです。改造して刻印が出来るようにしているのでしょう」


「“グルヴェイグ指令”なる計画があったということは、その魔鉱刻印(マギタイトスタンプ)のノウハウも既に商会に盗られていた、ということになろう」


シローク氏はやや厳しい顔つきでそう言った。今となってはそれは紛れもない事実。

それよりも私はシローク氏の人柄の変化にも驚いた。以前、連盟政府内部で初めて会ったときのようなおどおどした、言ってしまえば情けなさのある姿はどこにも無いのだ。ユリナとの関係と自身の立場の向上によってつけた自信は素晴らしいもののようだ。

私はそれに口を開いたまま黙り込んでしまった。


私の反応を見ると「あ、いや、これは失礼」と背筋を伸ばした。両掌を突き出すように前に出し、「これ以上挑発し合うのは止めよう。今日はケンカを売られに来たわけではないのだから」と掌を揺らした。

「だがなぁ」と考え込むように額に手を当てると続けた。


「私はどうも君のその話に違和感を覚える。その指令のターゲットは本当にユニオンなのか? 自爆行為としか思えないが。今現在、連盟政府内部はどうなっている?」


「物価の上昇が著しく、ハイパーインフレに近い状態だと伺っております」


「私がその“グルヴェイグ指令”を食卓で妻から聞いた程度でしかないにも関わらず、信用したのは何故だと思う? もちろん、私の妻であるユリナ・ギンスブルグは軍部省長官であり、噂話であっても信頼度を優先させて私に話す。話の出所も、レア・ベッテルハイムという、トバイアス・ザカライア商会の血の通った身内であることからも信頼度は高い。それであったとしても噂に過ぎないのだ」


「ではなぜ噂を真実だと受け止めたのですか?」


「そのインフレーションに大きく関与しているからなのだ」



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