アトラスたちの責務 第二十一話
フラメッシュ大尉を金融省の駐車場で待たせることになった。
金融省長官であるシローク・ギンスブルグの家の女中ではあるが、一応にも軍人であり文民統制だのなんだと様々な事情によって軍部省以外の省舎には入れないのだ。
駐車場で入れ替わるように私に付いた一等秘書官に案内されてシローク長官の執務室へと案内された。
予め綿密に組まれていた予定のおかげで面会の事務手続きは流れるように進んだ。だが、本音を言えば、廊下かどこかで待たされている方が気持ちの整理がもう少し出来た。
シローク長官と会うのは、些か、そう、気まずいのだ。
言わずもがな、かつて私はギンスブルグのお屋敷でとんでもないことをしでかしたからだ。
マリークの遊び相手と勉強の面倒を見るという、仕事外の時間にマリークを連れ去ろうとした。しかも、そのとき、私はギンスブルグ家のメイドの格好をしていた。
今思い返せば、葛藤に苛まれていたとはいえ、ああああ、と頭を抱えて絶叫したくなる。
「こちらです」と一等秘書官の声で我に返ると、そこは既に執務室のドアの前だった。
そして、秘書はこちらの悶絶するような恥辱にまみれた記憶などお構いなしにドアをノックして中へと私を導いた。
私は何をまず言えばいいのか、目的があるのだから何かを言うことなど困ることなどないはずだ。だが、何を言えばいいのか、言葉を選んで混乱してしまい眼球をぎょろぎょろと動かしてしまった。
このままでは気まずい沈黙が訪れてしまうと思った、そのときだ。
「よくきた。カミーユ・ヴィトー。歓迎する」とシローク長官のほうから、声をかけてきたのだ。
途端に私はやや低いその声に安心した。よく考えれば、ここはシローク氏にとっては職場だ。家で起きたこと、しかも自分の家族に起きたことは別に考えているのだろう。
何を気にしていたのか、自分が恥ずかしくもなったが、すぐに平常心に戻ることが出来た。
秘書が「失礼します」と言うと部屋から出て行くと、シローク長官は右手を差し出し、応接用のソファを指した。
「好きにかけてくれ」
「失礼致します」と私はソファの横へ移動した。




