アトラスたちの責務 第二十話
ユリナはすぐに顔を上げて「なんてな」と私の動揺を嘲るように白い歯を見せて笑ってきた。冗談だと言わんばかりだが、目が全く笑っていない。
「シロークんトコにも行くんだろ? お前にはこれがそうだって確認頼んだだけだから、私の用事は終わりー。それから、ルカスのおやっさんに頼まれてたコイツの解析結果だとかをお前に渡しとく。おやっさんによろしく頼むぜ。だが、まだ色々チェックが終わってない。どーせ判子押すだけだ。そっちが終わったら、もう一回軍部省まで顔を出せ。そんときに渡す」
そう言うとフラメッシュ大尉の方へ振り向いて目配せをした。すると大尉が私の側まで来ると「では、カミーユさん、金融省までご案内致します」と言って、掌をドアの外へと指して導いた。私はそこで「失礼します」としか言えずに、部屋を去ることになった。
それから駐車場に向かうと車に乗せられ、今度は金融省に向けて車が走り出した。
窓の外に見える街並みは以前のように活気がある。金融省長官選挙の時と同じようだが、街は確実に発展していた。
ここは大国の首都だ。世界の争いには何かしら繋がりがある。しかし、サント・プラントン、ラド・デル・マルで見ていたような、暴力的でやたら目に付くプロパガンダ広告は全く見当たらない。
それは私がエルフの国、ルーア共和国をよく知らないことから来ている思い込みなだけかもしれない。
路地は戦いとは無縁のスーツ姿の男と女。武器ではない何か大事なものを背負い、肩で風を切って通りを歩いている。若い男女も戦いなどには赴かず、街を歩いているのだ。
人間同士で殺し合いをしていることなど誰も知らないかのように生き生きと暮らしているように見える。
いつかはサント・プラントンもラド・デル・マルも、ノルデンヴィズも、このような平和に見える時代が訪れるだろうか。
窓から視線を外して、目をつぶった。




