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アトラスたちの責務 第十九話

「戦争ってのは他所でやらせるものなんだよ。戦争は相対する者が始めるが、長引かせるのは中立の者だ。土地が戦地から離れてる中立ってのは便利なもんだ。自分らは疲弊しないで、儲けと選挙の票を得られる手段の一つだからな。流れるのは金だけじゃない。票も流れるんだよ」


「まさかあなたが煽ったのですか?」


「そんなわけあるか。共和国は選挙もなければ不況でもない。人間社会の不安定さと、この間の帝政思想(ルアニサム)のクーデターを民間に犠牲をいっさい出さずに見事鎮圧したことで、今は誰もが保守的で、お陰様で支持率もかなり高い。シロークの話じゃあ、最近はユニオンの投資家がエケル建て国債を好む傾向があるらしい。エケル通貨が一番安定してるってことだろ。経済にてこ入れは必要が無い」


「では、あなた方共和国は、この連盟政府で作られた銃がこうしてここに横たわっているという現実に対して、どうするつもりですか?」


「どうもしない」


ユリナは言葉が終わるよりも僅かに早く、即答してきた。あっけらかんとした、それでいて無責任な返答に息をのんでしまい、言葉を探しているところに、さらに「ただ、色々なものの増産指示はもう出してある」とまで付け加えた。

そして、机に横たわっている銃をちらりと見た。


その視線が何を私に言おうとしているのか。いくら私でも分からないわけが無い。

拳を握ってしまった。だが、すぐに掌をほどいた。


今後、ヴィトー金融協会は共和国の金融市場にも参入する予定だ。ユリナが何をしようとも共和国が安定した巨大市場である限り、そして、私がヴィトー金融協会の者であるならば、ここで何かを言ってはいけない。


「武器にしろ、造幣機械にしろ、共和国は機密を流出させすぎです」


だが、言わずにはいられずに言ってしまった。

ユリナはその言葉にピクリと肩を動かし、首を傾けて顎を下げて、ゆっくりと上目遣いになった。白目を最大限にむき出しにして


「漏らすのは確かにこっちの落ち度だな。だが、盗むのは誰が悪いのか? まさか自分の盗みは悪くねぇとでもいいたいのか? そんなことはねぇだろ。盗んでおいて、どの面下げて私らのことを悪く言えるンだよ、なぁ、高度に文明化した人間サマ?」


と挑発するように口をパクパクと動かした。

この人は現役だ。軍部省長官というデスクワークに就いたとしても、その実力は衰えることはなく、それどころか年々増している。どうあがいても敵うわけもない。怖じ気づいてはいけないと分かっていても、私は生唾を飲み込んで固まってしまった。



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