アトラスたちの責務 第十八話
ユリナの言ったとおり、これは銃だ。
マルタン丘陵を越えてくる連盟政府・商会聯合軍の監視をしていたポルッカが木から落ちて敵に取り囲まれてしまったのを救出した際、負傷した彼女を担ぐ為に使った銃だ。
見た目は、共和国のチャリントンインダストリー製の銃よりもアスプルンド零年式二十二口径魔力雷管式小銃に似ている。
だが、薬室の外側部分には、何かの植物のモチーフ、おそらくオリーブのゴテゴテとした装飾が施されている。台尻の方へ目をやると、その先では鳩が枝を咥えているレリーフが施されている。
ポルッカを甚振って遊んでいた兵士を殺して、その場に転がっていたものを拾って使っていた。戦場となったダム周辺でもいくつか同様の銃が回収されたが、薬室が破裂していたり、銃身が開いて花のようになっていたり、泥が詰まりに詰まっていたりと、どれも状態が非常に悪く検証は困難を極めそうになった。しかし、その中でこれはかなり完璧な状態で回収することが出来たのだ。おそらく、所有者がやや後方にいたことで無茶な使われ方をしなかった為だろう。
形状や実戦での振る舞いを直に見ていたユニオンは、マルタン事変直後にこれらを共和国に大至急で引き渡したそうだ。
「そうです」
「で、これを連盟政府の連中が使ってた、と」
頷いた。先ほどから私は「そうです」と繰り返している。そろそろユリナの怒りが私に向いてしまうのではないだろうか、そう思い黙って頷くだけにした。
「確かに、これは共和国では見ない。ユニオンの銃は自作でもなければ、全てうちの貸し出し。北公のには似ているが、ジューリアが弄ってたヤツはもっと」ユリナは身振り手振りを大きくし「こう、四角い」と言った。
さらに続けて銃を持ち上げ「おまけにこいつぁ」と言いながら持ち上げた銃を高く掲げた。
「だいぶ重い」
「つまり、どこのものでもない、と言いたいわけですね」
「残念ながら、そういうことだ」
どこのとは口に出さない。出さないのではなく、出したくないのだろう。残すところは連盟政府しか残っていないのだ。そして、レアからの報告を鑑みれば、レアがユリナに売ろうとしていた商品であったあの銃が連盟政府へ流れた末に増えたと言うことになる。
最悪なのは、そこがこれを兵器として実戦に持ち込んできたことだ。品質はどうあれ、既にその段階にまで進んでいると言うことになる。
ユリナは「ヤツら、ヤる気だぞ、こりゃあ」とあくびをしながら言った。
呑気な態度に些かムッとしてしまい、「他人事ですね」と強めに言ってしまった。
「元はといえば、このタイプの銃は共和国のものでしょう。それが北公に流れ、さらに連盟政府に入った。技術の二重流出ですよ?」
「銃が外に出ちまったのは仕方ねぇ。遅かれ早かれ、そうなるのは予想済みだ。私らも避けたかったが、いよいよこの世界にも銃が溢れたってことだ。
しかし、まぁ何だ。お前ら人間同士の内乱なんざ、うちからすりゃあ対岸の火事でしかねーワケだ。私らは連盟政府と領土を接してない。友学連とか言うユニオンの腰巾着が緩衝地帯として存在する。喧嘩ごっこは人間同士で勝手にやってくれ」
「友学連はユニオンの属国ですが、軍の進駐は多いとは言えません。独自の軍もいますが、ユニオン本国ほど軍事力はないです。そのようなところに緩衝地帯を押しつけるなど」
「そりゃ、私らからすればよく燃えてくれた方がいいからなぁ」とユリナは掌の指を上に向けて弾き、何かが燃えているような仕草を見せた。
「あくまで武器を与える立場にいるつもりですか。争いが起きれば共和国も無事では済まされないですよ? これだけ武器を整えている以上、今言ったとおりに戦いの準備はしています!」
こちらがいきり立ってしまった。だが、ユリナはペースを変えずに、
「そうだろうなぁ。緩衝地帯が貧弱そうで今みたいな状況になったなら、むくむくしちゃうよなぁ。でもお前らそんなに弱くないだろ?」
と言うと、落ち着けと言わんばかりに肩を叩いてウィンクをしてきた。




