アトラスたちの責務 第十一話
「カミーユです。頼まれていた書類がご用意出来たので、お届けにあがりました」
「入れ」と声が聞こえたのでドアを開けて中へと入った。
応接テーブルの上には書類が並び、それを秘書が淡々とまとめていた。
父上は執務机に腰掛けると「珍妙な集団だと思わないか?」と私に尋ねてきた。
秘書に向けて「二つ」と言うと、秘書は片付けを一度中断して頭を下げて給湯室へと入っていった。父上にはどうやら、今少しばかりの時間があるようだ。
「皆それぞれに独特な格好をしている。白と黒のローブにトゥニカを被ってぞろりとした女、縁に装飾が施されたローブの様な服の男、やたらと尖った金の冠に装飾の付いた杖の老人、首元までボタンを留めて黒のケープに頭の形にぴったりと合った帽子を被った黒い服の男、シャツの上に黒のガウンを羽織り、膝の丈まであるストールを首に乗せている男。てんでばらばらではないか。それでいて同じ神を信じている一つの集団と言うらしいのだ」
「かつてのスヴェリア大系と中央大系の二大宗教ではない宗教ですが、三番目に規模のある信仰ですね。三番目はまとまれば二大にも及ぶ規模だそうですが、宗派、しきたりや教義が細分化されていてそれぞれが独特でまとまるのは困難だったそうです」
父上はそうだなとは言わずに両眉を上げるだけだった。言わずもがなそれくらいのことなど知っているのだろう。
目の覚めるような香ばしい香りが漂ってきて、肩が降りるよう感覚に包まれた。片付けを終えていた秘書がコーヒーを二つ淹れて運んできたようだ。
父上は出てきたカップを持ち上げると、登っていた湯気を大きく吸い込んだ。一口カップの縁につけると、私の方へ振り向いた。
「廊下でぞろりとした格好の女と楽しげに話をていたな。知り合いかね?」
「ええ、以前ユニオンに密入国する際に、彼女が国境を警備していた兵に殴られてしまいそうになったのを助けました」
「マルタン事変のときか。そういえば、こちらに来たときは無一文だったそうだな。あのとき渡したお金をあげたのか?」
返事をするのが憚られた。思い起こせば、ラド・デル・マルまでたどり着ければ何とかなるだろうとあまり考えも無しに袋まるごと全額渡してしまった。




