アトラスたちの責務 第八話
「……では、こちらからの提案は、そうですね。今簡単に申し上げるなら、通貨単位の切り下げなどでしょうか。連盟政府の最新事情に精通しているベッテルハイム氏にも……」
頭取に頼まれていた書類を作成しオフィスへと向かったところ、ドア越しに頭取と誰かが何か話をしている声が聞こえた。頭取がわざわざこの部屋で来客対応をするというのは珍しい。ユニオンの高官か、資産家か、とにかく超高額預金者であるどこかの上客が見えているのだろう。
ドアから離れて面談が終わるのを待つことにした。
「では、院長の方へは我々から伝える。本日は忙しい中で面会に応じたことは評価に値する。それも重ねて院長に報告する。その働きぶりには院長も喜ばれるだろう」
しばらくすると話し声がひときわ大きくなり、ドアから離れていても聞こえるようになった。
終わり際になると声が大きくなるのは人間誰でも同じようだ。ドア越しにそう聞こえた。終わりが近いようだ。
「いえいえ、あなた方は、失礼ではありますが、超大口顧客でありますからね。お断りすることなどありませんよ」
父は珍しく丁寧な話し方をしている。いったいどれほどの高級官僚なのだろうか。思わず様子を覗うように身体をドアに傾けると、「失礼させていただこう」と部屋の中から声が聞こえて、慌てて姿勢を正した。
どうやら話合いは終わったようだ。
ドアの方を見ると、秘書がドアを内側から開けていた。開かれると同時に、変わった服装の集団がどやどやと出てきた。服装は色合いも飾りも個性的であり統一されてはいないが、どれも高そうな生地で作られている。
その集団の仲に女性が一人混じっていた。白と黒のローブにトゥニカを被っている。
揺れるトゥニカの合間に見えた顔に見覚えがあり、通り抜けたその姿を目で追ってしまった。
この女性とは、かつてどこかで会ったことが――。
そう思った瞬間、全てを思い出したのだ。
マルタン事変の前に連盟政府とユニオンの国境を越えるときに、国境警備兵に殴られそうになっていたあの女性だ。
身体は勝手に動き、集団に向かって「あなた!」と呼びかけてしまった。
集団の全員が一斉に振り向き怪訝な顔をしてこちらを見てきたが、その女性だけはすぐに私に気がつき、こちらに身体を向けて微笑みを浮かべた。
他の者たちは無関心に前を向くと、廊下進んでいった。その中で一人女性は立ち止まっていたので私は駆け寄った。
何故ここにいるのか、色々な疑問はあったが、久しぶりの姿に喜びを覚えた。
最終章書くのって何でこんなキツいの




