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深淵の先 第三十四話

本部の机は書類だらけになっていた。その山の間で私は頭を抱えて突っ伏し、気が狂いそうになっていた。


どうするべきだ。どうしろというのだ。


情報工作に向けた準備もしなければいけない。ヘルツシュプリングをどうするかも決めなければいけない。だが、どちらにおいても例の件が重くのしかかるのだ。


研究内容への調査は私に任されたものだが、ノルデンヴィズ北西のシゴーニュブロンシュ・アジールで見てきたものをの報告はしていない。

スティリグマ殿が指示を出してきたが正式なものではない。私が彼に報告すれば、彼は職務として上層部に報告し、教導総攬院(ドゥチェンス)が私を消そうと動き出す。報告すれば私一人は消されて終わりだ。だが、残った命をまさに生き残る為に燃やし続け、まだ生きている者たちは救われる機会を永遠に失うことになる。私の代わりが動くかもしれない。だが、一秒でも早く助けなければ苦痛を与えられてしまう。

シゴーニュブロンシュ・アジールのあの子たちはおそらく北公が保護している。しかし、今こうしている間にも連盟政府のどこかで実験は行われているのだ。あの子たちだけではすまされないのだ。


ヘルツシュプリングへの対処と情報工作は必ず成し遂げなければ連盟政府は戦略的に大きな後れを取る。それを私に任せたと言うことは、実験のことについて報告などしてくるなと言うことなのだ。


数日前、カミーユ・ヴィトーから妙な連絡を受けた。その内容はまるで私がアジールで見た者について探りを入れていることを知っているかのようなものだった。

カミーユ・ヴィトー本人が直接関係なくとも、教導総攬院に関係する宗教団体の者から間接的に探りを入れられているのは間違いない。


情報工作も容易ではない。

瞬く間に複雑化した世界で情報の混乱をもたらすのは容易ではない。

キューディラが広く普及し、掲示板機能は強化され、そして、新聞という文字媒体も増えた。その結果、情報の信頼度は高くなり、素早く広く多く流れることになったからだ。

時代に合わせた工作を行わなければ、中途半端な情報などすぐにその波に飲み込まれて駆逐されてしまう。


ヘルツシュプリングについても特殊な状況だ。

彼の一族はかつてのスヴェリア内乱の際には神秘派としての立場を取った。

彼が魔法集団戦の指揮を得意とするしていることから分かるとおり、家系的に錬金術よりも魔術に傾倒しているからだ。それは後世に至るまで優秀な魔法使いを輩出していることからも分かる。

だが、ヘルツシュプリング自身は魔法が使えない。その反動故か、魔法使いを使役することには異常なまでに情熱を燃やすのだ。そして、その使い方も、魔力を代償にして得た才能と言うにはあまりに安直なほど巧みなのである。

一族は神秘派を掲げていたが、魔法使いが多くいるために内乱の直接的な原因の渦からは外れていた。だから、神秘派の優秀な家系であるというのに、かつて広啓派が多く残った北部辺境地域で名を馳せているのだ。


時代は移り変わったが、スヴェンニーたちは未だに広啓派だの神秘派だのを気にかけている。


だが、子どもたちは。いや、ヘルツシュプリングを。その前に時間がかかる情報工作を。

ああ、私はまず何をすれば、何から手をつければいいのだ。



「クロエさぁーん」



オペレーターの女の子が私を呼ぶ大声が耳をつんざいた。



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