闇に墜ちたレポート
“絶対沈黙等級 全知魔法実験結果 連盟歴二百十六年 本冊子は結果および一部考察のみ記載。実験方法はブリーリゾン大深度地下魔術研究所資料室HP-12-C3-D6にて保管”
“全被験体五百体のうち、実際に、肉体年齢遡行、つまり、全知魔法の予備実験たる当研究の目的である“精神および記憶を保持したままでの肉体の若返り”をした個体は五体であった。
全体の七十三パーセントに相当する三百九十八体は実験開始直後に死亡。十三パーセント、六十八体は実験前期段階で死亡。四パーセント、二十体は実験直後に死亡。約二パーセント、九人は集計中に錯乱。壁に頭をぶつけ続けたり、生命維持装置を自ら外したり、異常な行動を繰り返した後に自死。一パーセントの五体は、肉体年齢が設定した年齢と同等と見なせる状態となった。
しかし、五体とも精神が不安定であり、実験終了後半年足らずで全員衰弱死した。
肉体年齢遡行実験後に存命した五体は、その後設定年齢に相応する成長過程を辿ると予想されたが、どの個体も正常発育をすることはなかった。
全員に共通していたのは、
甲、正常骨格の維持不能。
乙、胸腺肥大。
丙、歯牙欠損。
丁、繰り返す心房細動。
戊、大動脈と肺動脈の短絡。
と大きく五つ見られた。
また、全員ではなく各個に見られた物もある。
己、関節の骨化。
庚、大網と内部臓器の幼若化時間差による小腸、大腸、回腸の閉塞や癒着。
が見られた。
共通してみられた症状について。
甲について、肉体年齢遡行の部位的不均衡(以下、遡行不均衡)による軟骨内骨化や膜性骨化の成長速度の不均衡による正常骨格維持不能による。ほぼ全員歩行困難。
乙について、胸腺の脂肪化程度は実験前の段階で、個体の発育状況により差が見られた。だが、こちらも同様に遡行不均衡により、残存していた胸腺が腫瘍化した。
丙について、上顎骨および下顎骨両方において、多くの歯牙欠損が見られた。側切歯や小臼歯の欠損といった一般的に少なくはないと報告されているものではなく、切歯、犬歯、大臼歯なども欠損していた。甲に記述したことにより、顎骨の成長速度差に起因する。
丁、戊について、丁は戊に付帯して症状として現れた、胎児の段階では通常存在している肺動脈と下行大動脈の接続が遡行不均衡により現れたことによる。
個別に見られた症状について。
己について、関節の骨化は脊椎骨が特に顕著であり、椎骨に関連する後縦靱帯に炎症を起こしていた。大腿骨においても成長の動的平衡は崩れ、左右で足の長さに差異が出ていた。脊椎骨および大腿骨がどちらも発育過程において軟骨内骨化であることに留意されたし。
庚について、大網と内部臓器の幼若化時間差による小腸、大腸、回腸の閉塞や癒着も組織内での遡行不均衡によるものである。
本実験は失(乱暴に塗りつぶされて消されている)。
より具体的に前後を比較できるようにする為、幼年期、成長後、遡行後が比較できる被験体を用いる必要がある。……”




