深淵の先 第二十七話
ゲートを進み、足元に張り出す無数の木の根を避けてしばらく進むと、滝のような雨音が再び耳に届いた。この先で森が開けているようだ。この森は地図の上では、背の高い木が生い茂る鬱蒼とした森だけと記されていたはずだ。
木々の隙間から見えた原っぱには背の高い草が生い茂り、その中に木材や石でできた遊具が置かれていた。どれも朽ち果てていて、触るだけで崩れてしまいそうだ。
ここは年齢に関係なく困窮者が集められる救貧院というよりも、どちらかといえば子どもが預けられる孤児院のようなところなのだろう。
森の出口まで来ると再び雨の中に出た。顔を上げると、遊具と雑草の茂みの先に大きな廃屋が現れたのだ。
白い石造りで二階建てのようだ。高い位置に横に長く取られた、明かり取りほどの窓。
最初に目に付いた印象は一言でまとめれば「収容所」だ。
目の前には崩れかけの三角屋根の建物しかないが、奥行きがだいぶある、あったようだ。壁と同じ白い石の残骸が斜め奥の方へと向かって伸びている。角には塔があったのか、先の尖っていたであろう屋根が瓦礫になっている。
瓦礫はどれも石材だが、床材の木の板も散らばっている。それはどれも黒く墨になり、さらにそこに長い雨や雪、日照りが繰り返し打ち付けた末に朽ちているようにも見えた。
炭化していることは確かであり、かなり前に火事か何かで焼け落ちていたようだった。
取り囲む木々は風に煽られて、分厚い暗雲の作り出す暗闇の中でその腕のような枝を振り回し、木の葉たちを踊り狂わせている。風はうなり声を上げて、行く手を阻む枝を押し退けて通り抜けていく。
得体の知れない何かが息を潜めているこの廃屋の不気味さをより一層かき立てている。
茂みには森の出口から繰り返し踏まれて出来たような一直線の道が続いており、その先にある廃屋入り口のドアは外されている。
壊れて倒れているのではなく、金具が取り外されて、ドア板を外して横の壁に意図的に立てかけてあるのだ。
草の倒れた獣道を辿って近づいてみれば、ドア板とドアの周りの壁は修繕された形跡があることに気がついた。
杖を高く掲げてドア枠周りを照らしてみると、一度焼け落ちた建物の一部を改めて作り直していたような形跡があった。
ドアを抜けて中に入るとホールが広がっていた。元の火事で焼け落ちていたウェイティングホールを建物にしたようだ。
ホールの中は閉鎖されているのか、雨は吹き込んでこない。音はよく通るようで、どこからか漏れている雨が滴る音が響いている。
だが、広さがあるというのに肌に空気が押しつけられるような感覚がある。鼓膜も外から張られるようになり、思わず生唾を飲み込んでしまった。
内部は荒れ放題だ。倒れた椅子に机。本棚。
何かを踏んづけるとくしゃくしゃと音がした。足元を慌てて照らすと、書類束が落ちていた。乾いた泥や砂がこびりついたそれを持ち上げて内容を確認した。




