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鵰の飛翔 第十二話

「なるほど」


その一言で閣下の芝居は終わった。

閣下の表情は無表情に戻り、操作盤に手を突き前屈みになっていた身体を起こして背筋を伸ばした。

団員の男は喜び混じりの興奮気味な声を荒げたが、ヘルツシュプリングの名前を言った途端、顔から血の気は引き始めた。


「と言うわけなのです。閣下」と確かめるように尋ねると、閣下は「実に」とゆっくりと頷いた。


「実に興味深い供述を得られたな。君、録音はしているかね?」と見張りの兵士の方を見た。

「アスプルンド博士は魔石に光学的にも保存できるようなものを作ったそうです。音声魔石と連動させてより確かな証拠になるそうです」と兵士は答えた。

今ここで起きた全てのことが証拠として残ったのだ。

閣下は「光学的な保存がよく分からないが、よろしい」と言うと、腕を組み右手で顎を弄り始めた。


「道理で最近、あの失職者を基地周辺で見かけなかったわけか。まさか連盟政府に寝返っていたとはな。廃業将校で田舎に引っ込むだろうと放っておいたが、見張りは付けておくべきだった」


大きく鼻からため息を吐き出すと「君は名前は何というのかね?」と男に向かって尋ね始めた。


(答えるわけ無い! お前たちは裏切り者だ! 裏切り者は裏切ったっていいんだ!)


「随分とヘルツシュプリングに心酔しているようだな。あの裏切り者にそんな魅力があったのか」


「おそらく、以前が酷すぎたのでしょう。この……名前が無いのは呼びにくいですね。とりあえず“裏切り者(ペットリ)”君と呼びましょう。ペットリ君はビラ・ホラにも来ていたようです。そうなるとヴァンダーフェルケ・オーデンの在籍期間は短くないようですね」


(裏切り者(ペットリ)だと!?)と眉間に皺を寄せて怒鳴り、椅子から立ち上がろうとガタガタと揺らし始めた。


(ふざけるな! 裏切り者はお前達全員だ! お前達なんか正義によって、すぐに殺される!)


「ペットリが裏切り者であるのが分かるのか。北訛りはだいぶ聞き分けづらいと聞くが。さて、ペットリ君。君はこれから北公の定めた司法の場に立つことになる。領土への侵犯は許されざることだろう。どれほど重い罰を受けるか。銃殺刑、絞首刑……。何れにせよ、死罪は免れえないだろうな」


男は椅子で暴れるのをピタリと辞めると、悲しそうに鼻筋に皺を寄せた。

名誉の死などと喚いておきながら、与えられるとなると怖くなるのだろう。死を恐れるのは理解出来るが、貴族であり命を厭わないと喚くのであるなら、それを恐れてはいけないだろう。戦争の無い世で育った平和な世代だ。


「そこで司法取引といこうではないか。君は航空機を操縦することが出来る。マルタンからここ、北公まで超長距離を無寄港で飛ぶほどの魔力と実力、集中力、操縦技術を兼ね揃えている。そこで、北公の航空戦闘部隊の教官として働かないかね?」


閣下はあえて“新たに新設される”とは言わなかった。私は航空戦闘部隊など聞いたこともない。今この瞬間、作ることを決定したのだろう。


(このおれに裏切り者になれというのか?)


「裏切り者に心酔しているなら、それの何を気にするのだ? ここで首を縦に振れば、君は文字通り裏切り者だ。横に振れば、切り落として二度と頷けぬようにするだけだ」


(おれの腕が欲しいんだろ? 首を切り落とした腕だけなら使い物にならないぞ)とペットリは鼻で笑った。


「それは心配に及ばない。世界を見たまえ。飛行機に乗れるのは君だけではないぞ。替えは利く。いくらでもな。だが、替えを探すのが少々手間なのだ。航空機の操縦技術が今手頃な距離にあるのだよ。君というそれがな」


(おれは道具じゃない。替えが利くなら殺せ。こんな不名誉なことがあってたまるか。おれとは違って誇りなんか持ち合わせていない、どうしようもないヤツを見つけ出すんだな)



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