鵰の飛翔 第九話
だが、問題は量産するだけでは解決しない。強い武器、便利なモノがあったとしても、使いこなせる者がいなければ無用の長物だ。
「ところで、ムーバリ」と閣下は思い出したようになりミラーガラスの方を指さした。
「先ほど“得られた供述”と言っていたな。これまでの話は見た目だけでの話だった。このヴァンダーフェルケ・オーデンの男が何を言ったのかね?」
「そうですね。先ほど供述と言いましたが、この場で直接聞いたわけではないのです。マルタンの市街地でイズミさんたちと行動したときに、連盟政府の別働隊とも協力がありまして、そのときに気になることを言っていたのです。それについて飛行機の中で操縦しながら色々尋ねたのですが、そこで気になることを言ったのです」
「連盟政府の別働隊とは何だ? 現場で協力するような見解の一致があったのか?」
「聖なる虹の橋のクロエですよ。イズミさんがノルデンヴィズのロフリーナで彼女と密会した後、マルタンに入るときに協力させたみたいなのです。彼女は皇帝を殺害されては困る立場でした。それを利用して手伝わせたのでしょう。イズミさんがアスプルンド博士からサイドカーと機関銃を奪ったでしょう。あれがそうですよ」
「何ともややこしいな」閣下は顔をしかめた。
「連盟政府はマルタンを取り返すつもりでしたが、内部で方法が割れていたのでしょう。皇帝を懐柔して入り込むか、力によって奪取するかでまとまることはなかったようです。懐柔策が有利でしたが、アニエス下将、いえ、アニエス陛下の最後の行動である亡命宣言と告発により、どちらも覆されてしまいましたが」
「元下将にもイズミ君にも聞かなければいけないことがあるな。元下将はユニオンに勾留中でしかたないとしても、彼の方は今どこで何をしている?」
「共和国の共和制記念病院のどこかに入院しています」
「また怪我しているのか。だが、我々は彼に少し甘過ぎたかもしれないな。こちらで指名手配しておこう。アスプルンド博士の恐喝罪と武器の窃盗罪だ」
「随分、軽い罪で手配ですね。彼はお尋ね者になるのが趣味なのでしょうかね。本題からずれてしまいますね。とりあえず、ここの彼の話を聞きましょう」
大きな四角い強化ガラスの方へと近づいた。こちらからは見えているが、あちらからはミラーとなっておりこちらの様子はうかがい知れない。
男は青白い照明を受け、全身が青みがかった状態で椅子に座っている。だが、意識はないのか、口を開けて顔を天井に向けている。
「死んでいるのか?」
「いえ、死んだように眠りこけているのでしょう。飛行で魔力を消耗しきって意識がありません。私が半日近くもぶっ通しで飛ばせ続けたので。彼にも悪いことをしましたよ。とはいえ、二、三時間ほど眠っているので、会話を出来るほどの体力は戻っているでしょう」
見張りの兵士に「見張りの者、彼の目を覚まさせなさい」と指示を出した。するとその兵士は敬礼すると、目の前の操作盤の右上にある青いボタンを押した。




