鵰の飛翔 第五話
「君が酷使したパイロットが勾留されているのは分かったが、何故私に合わせる必要がある?」
「得られた供述で気になることがありましたので。もちろん、保安上の懸念については問題ありません。共和国チャリントン・インダストリー製の魔法にも物理にも強い強化ガラス越しです。
性能試験においてあちらの軍部省長官の魔法と拳に一回は耐えたそうなので、問題ありません。
それ越しの面会となりますから。いざとなれば、私も側にいますし」
それから三分ほど車を走らせ、収容施設へと入っていった。
門番は車を見るや敬礼すると、重たいシャッターを開けた。車を止めるとまるで覆い隠すかのようにシャッターはすぐに降ろされ、暗闇に飲みこまれた。それに遅れるように照明が付いたので、車を降りて閣下のドアを開け、勾留されている場所まで向かった。
拘束室の控え室に入ると、見張りの兵が立ち上がり敬礼をしてきた。閣下は彼に「ご苦労」と声をかけるとミラーガラスに近づいた。ガラスの向こうでは、くたびれた丸首のシャツと皺と土埃だらけの黒いジョッパーズ、と紐が緩んだ年季の入ったブーツを履いた男がパイプ椅子でうなだれている。首を上に向けて口を開き、よだれを垂らしている。
だらしない格好を見た閣下は「ふむ」と顔をしかめ、押収品が置かれている鉄製のテーブルへ来た。丁寧に並べられている押収品を一つ一つ手に取り、品定めするように丁寧に見ていった。魔法使いたる証の杖、ナイフや何枚かの身分証、鍵。そして、着ていた黒いダブルボタンの上着。
閣下はその袖に付いている腕章を引っ張り上げた。
「見たことのない軍服だな。マルタンにいたのは亡命政府軍だろう。キチンと整った服を着ている者は少数という報告だが。どこの部隊だ?」
「ヴァンダーフェルケオーデン。連盟政府の特殊部隊です」
閣下は、ああ、と両眉を上げ、
「以前は邪魔をしてくれた者たちか。私は直接見てはいないのだが、これがそうなのか」
と少し蔑むように言った。投げ捨てるように軍服を放ると、私の方へ振り向いた。
「その、まとまりのない例の集団の一人が何故君と共にここにいるのだ?」
「この彼こそがパイロットなのですよ」
「なぜ連盟政府の者が飛行機を操縦できるのだ? 飛行機を扱えるのはユニオンと共和国だけではないのか?」
「分かりかねます。言えることは一つ。連盟政府は何らかの形で飛行機をもう手にしている可能性が非常に高い、ということです」




