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鵰の飛翔 第三話

「私は良くとも、チームが持たない。最終的に量産までこぎ着けるなら人手がいる。私一人で完結する物ではない」


「予算と人員か?」と閣下は言うと、上着の内ポケットから紙を出した。


「ここに必要な予算と人員をこれに書いてくれ。今日の夕方、いや昼前までだ。そうすれば夕方には調整する」


閣下は博士にその白紙の紙を押しつけた。博士は驚いた顔で閣下と紙を交互に見ている。


「世界は混迷を極めている。今、全土の空気が何か怯えるように震えているのだ。その波は漏れなく北公にも不安の波紋を広げている。何かが起きる気がするのだ。まずこれをそのまま増やしていただこう」


博士は“そのまま”という言葉に気色ばんだ。改良込みで一週間だと受け取っていたようだ。身体を“海神の翁”のある方へ向けて「いつどうなるか分からない、この」と両手を大げさに広げ「イルカをか?」と語気を強めた。

閣下は表情を変えず、


「安全性などは後回しだ。使える者たちを作り出し、実戦投入出来るようになってから研究改良を行ってくれ」


と手元の紙を受け取るのを促すように揺らした。


博士は「現行、これを飛ばせるのは今のところ魔術擲弾兵くらいだ。若く有能な魔術擲弾兵を殺す気か」とますます鼻筋に皺を寄せて閣下を睨みつけた。


「博士、落ち着いてください。安全性に関しては最低限確保されていますよ。私がマルタンからここまでこれで来たのですから。それほどの長距離を十二時間近くノンストップで来られたのですから」


「君は何もしていないではないか。後ろの座席に座って前にいる者の首筋に冷たい銃口を突きつけていただけではないか」


「それはそうですね。ですが、単座に無理矢理二人乗っていたのに墜ちることはありませんでしたよ」


博士はそれに、ふん、と鼻を鳴らした。


「これは私の欲した“海神の翁(エル・ディオス・マル)”ではないな。動力、武器、生命維持装置」


北公への帰路に使ったその空を飛ぶイルカの身体を撫でるように触った後、軽く叩いた。

跳ねるような軽い音は金属の表面を伝い、やがて内部の空洞へとしみ込み、反響を繰り返した後に広がり空気に吸い込まれるように消えていった。


「これは何から何まで魔力で駆動させる全魔導単座式空挺だ。全てを魔石のみで行える全魔石型、ユニオンの青い機体、あれこそが私の求めた“飛行機”だ。魔法使いが強くない、そして人数も少ない北公に必要なのはそちらだ。“海神の翁(エル・ディオス・マル)計画”の完了は遠のいたぞ」


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