秋霖止まず 第六十八話
「仕方あるまい。合算されては副市長の当選は確実に不可能とまでは行かないが、かなり困難となる。今さら制度を厳格化することは不可能だ。急に押し通して成立させようものなら、候補を落とそうとしていると支持者の反感を買う。これ以降はその二人が共同市長となる最悪の事態を想定して話を進める。まずは大統領権限の拡大について議会に提出することになる。丁度明後日、マルタンへの大統領権限の拡大を決議することになっている。軍関係は折り込み済みだ。だが、商業に関しては権限を及ぼしていない。まずは商業だ。通貨の流通への介入をしなければいけない。当選した次の日から即時とは連中もできないはずだ」
ミラモンテス氏とコマースギルド役員の女性は頷いた。
「副市長は今後拡大された権限の中で中核的存在を担ってもらう。落選したからと言って田舎に引っ込むようなことは許さないと伝えておけ」
上品な中年男性は「かしこまりました」と胸元に手を当てた。
「民議会議員は保守派閥を確実に仲間に引き込め。今の議会は全体的に保守的な傾向があるが、どっち付かずな者も少なからずいる」
民議会議員は一様に頷いた。
「さて、アニエス陛下」
ルカス大統領は前委任指示を出した後、私の方へ振り向いた。
「あなたは二人を正式に支持表明したと世間には伝わっている。あなたの見立てでは、得票数が多いのはどちらがか検討はつけられるか?」
「おそらくですが、以前の調査通りにギヌメール候補が優位であるかと思います。彼女は非常に弁が立ちます。今回の支持表明をどのように利用するかは分かりませんが、おそらく票は伸ばすでしょう」
「ギヌメール候補は、マルタンでは確か政治顧問だったな。彼女が市長になれば、まず行政を手中に収めるだろう。だが、ルジャンドル候補の得票数が少ないとなれば軍関係は二番手というところか」
ルカス大統領は考え込むようになり、口を押さえて足元を見た。視線を左右に動かした後顔を上げると、
「アニエス陛下は保守系デスクと共同で『皇帝は軍事掌握を狙っている』という記事を書け。大統領権限を拡大するのは、それを取り返すという目的があるという雰囲気を出すのだ!」
と私と保守系デスクを交互に見た。
「以上、各自動け!」
それから徹夜で作業が行われた。
翌日のマリナ・ジャーナルの朝刊の見出しは『マルタン事変、未だ終息の見通し立たず?』となった。
“皇帝はマルタンの軍隊を私物化し、再び暴力による支配を企んでいるようだ。
近日行われるマルタン市長選で、当選が濃厚となったギヌメール候補と共同で市長となるルジャンドル候補は軍備に長けている。軍備に長けている候補への支持表明は軍隊の私物化を目論んでいるからだ。……”
そして、夜明けとともに眠気を覚ますような記事が街に流れた。




