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秋霖止まず 第五十一話

「あら、最近何やら、連盟政府に頻繁に出入りしていると聞きましたが? それも、移動魔法や密入国などこそこそとしたようなものではなく、国境のゲートのど真ん中を堂々と通過して、双方の兵士たちに、こんにちはー、と愛想たっぷりの笑顔を振りまいていると伺いましたが?」


ちらりとマフレナの方を見ると、彼女は何かしらと小首をかしげて目を合わせてきた。


「またメイドコミュニティか……。抜け目がない方だな。実は、昨今の状況を鑑みたのかトバイアス・ザカライア商会側からレア氏に接近してきたと本人から報告を受けた。利益の為とはいえ、その恥知らずさは見習うべきだな。どちらもだ」


「マルタン事変で、一田舎娘でしかない私がいとも容易く皇帝になれたのは、背後に連盟政府と商会がいたからです。それらに自ら接近している様子を見せれば、連盟政府に乗っ取られてしまうと正義を語ったことなど忘れて、また権力の座に返り咲こうとしているような受け取り方をする人もいるでしょう。

私が権利を手放したくない、もしくは取り戻したい、そしてさらに強めたいと権威思考であり、そのために連盟政府や商会と関わりの在る者たちに接近していることを中心に広めれば、投票で顧問団たちが選ばれたとしても、あなたが、つまり大統領がマルタンでの権限を拡大することに反発こそあれども違和感はないはずです。逆に、私が二人を支持したことで副市長が当選すれば何の問題もありません」


「あなたばかり泥を被ることになるではないか」


「むしろ泥は被っておかなければいけません。私は支持表明すればまた議会の評価は逆戻りします。ユニオン政府にあまり皇帝の支持者がいるのは良い傾向とは思えませんからね。科せられる罰が甘過ぎては、マルタン事変で被害を被った者たちが黙っていないでしょうからね」


「見上げた覚悟だな、陛下殿」ルカス大統領は大きく頷いた。


「だが、君は顧問団たちと仲違いしただろう。どういう反応を示すか」


「私が支持を表明したところで、票田であることさえ利用できれば良いのだから特に何も言わないでしょう。権力さえ握れれば良いだけ、権力を握ることが最終目標の人たちですから。あくまで私が表明するのは支持だけです。権力機構に関与するようなことを言えば反発するでしょうからね。支持表明はこっそりメディアに伝えればいいというものではありません。堂々と公衆の面前で行わなければいけません。

それよりも以前に元顧問団たちに会うのは、一度きりだけです。あまりにも何度も会おうとすると、権力志向が強すぎると思われ、元顧問団たちから距離を取られます。

元顧問団たちには権力志向ではないとアピールして、市民には権力志向である素振りを見せなければいけません。

メディアには私が権力志向であり、それには断固反対すべきと読者の感情を煽るように書かせましょう。

その後で顧問団たちと会い、私自身が権力志向ではないということをきっちり伝えましょう。メディアは嘘ばかりだ、誇張をしている、と被害者の顔をしてです。

そのギャップで元顧問団の心を掴むのです。本当は違う。本当の私を知るのは、逆境に置かれた亡命政府としてマルタンで共に過ごした元顧問団であるあなた方だけだ、と」


ルカス大統領は鼻を鳴らして口角を上げて私を見てきた。


「あなたもなかなか悪役が板に付いてきたな」


悪そうな顔に私は両肩を上げて返した。ルカス大統領は乗り気になったようだ。


「元々そうではないですか。この間の記者会見程度で私の印象が変わるわけないでしょう。ユニオン国民全員が見たり聞いたりしたわけではないのですから」


「ユニオンのためを思っての行動とは言え、何もかもあなた一人にこうも押しつけては、私も申し訳ない。法的な処分は極めて人道的なものを約束しよう」


「寛大な処置に感謝致します」


「うむ、では早速マリナ・ジャーナルに記事を書かせよう。番記者を呼びたまえ」



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